みなさまのお悩みに、脳科学者の中野信子さんがお答えする連載「あなたのお悩み、脳が解決できるかも?」。今回は、「他人よりスタートが遅れた後悔」という難題に、中野さんが脳科学の観点から回答します。(全2回の2回目。#1#3を読む)

中野信子さん ©文藝春秋

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Q どうしてもっと早く始めなかったのだろうと後悔することばかり── 37歳・配偶者あり・女性医師からの相談

――私は何か目標を持った時、「もっと早くスタートしていたら今頃は違っただろうな」「今からスタートしたら、達成するには何年かかるだろう」と、早めにスタートしなかった事への後悔と、同じ年齢で既に目標とすべき姿になっている人への羨み、成功するとも限らない未来など考え、結局、本腰が入らないまま時が経ってしまいます。その間にも私よりも後にスタートした人たちに追い抜かれ、さらにやる気がなくなってしまうのです。

「人生いつからでもスタートできる」と思い込ませようとしましたが、やはり私の思考の癖は消えません。このような思考にどのように向き合えばよいか、アドバイスをいただけないでしょうか。

 お気持ちはよくわかります。あなたのご相談を読んで、何だか懐かしい気がしました。私の親しい友人にもあなたと同じ思考の癖を持つ人がいます。その人も目標のためにものすごく勉強して、それを達成するのですが、そこで満足するということがなく、また次の勉強を始めるのです。

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 今、どれほど目標を達成できているか。あなたはそれを正確に見る必要があります。医師になるという目標はすでに成し遂げていらっしゃいますね。自分の弱点を見つけて、それを克服するために先手を打って努力されてきたのではありませんか。あなたはすごく克己心のある方なのだと思います。

 あなたのこれまでの生き方を端的に表現してみると、いわば「ゴールポストを後ろに後ろにとずらしていく戦略」です。すでに達成していることは、これは真のゴールではない、とどこかで処理してしまって、新しいゴールをつくってしまう。そうやって無意識にゴールポストを動かしてしまうほど、あなたは自分に鞭打って前に進むことが自分を成功に導いてきた、と信じているのではないでしょうか。

 自分はもっとできたはずだから、もっと頑張らなければいけない……そうしたモチベーションの上げ方で、多くのことを成し遂げてこられたのだろうと思います。私には、そのやり方をやめたほうがいいですよとはとても言えません。

 多くの人があなたのことを尊敬のまなざしで見ているはずです。人の称賛するようなことをやり遂げてなお、おごらずに努力し続ける、克己の人。今もずっと、自分はもっと努力できたはずだと自らを省みて、弛みなく前に進もうとする、闘志の人。