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どうしてもっと早く始めなかったのか後悔ばかり… 脳科学者が考える“追い抜かれた焦り”との付き合い方

中野信子の人生相談#2

2022/11/06
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 あなたのような人を私はうらやましく思います。私はどちらかといえば今がよければそれでいい、明日できることは今日やりたくないと思うタイプでして、今がよくてももっとできたはずだ、さらに頑張ろうというあなたのような人を見ると、もう手放しで称賛したくなるのです。あなたのような方がいるから、日本はまだなんとかなっているのではないかと思うほどです。

 自分より後からスタートした人に追い抜かれているように感じているとのことですが、私たちは一直線に上から下へと並んでいるわけでもなく、バラバラに3次元に分散して暮らしているというのが実際のモデルに近いのではないでしょうか。

©iStock.com

 誰かが先行しているように見えても、実は数直線の矢印の方向は逆向きだった、ということはしばしばありますし、誰が上とか下とか、幸福度がどうなのかという基準さえ、万国共通のものですらないのです。

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 人間の認知なんて意外なほどいい加減なものです。3人ほどが「あの人がすごいね」と言っている場面に出会えば、「みんながそう言っている」とほとんどの人は言い始めるでしょう。あなたも医療統計に親しんでいると思いますが、n=3、つまりサンプル数が3なんて、ほとんど統計的に無意味ですね。現実に誰が先行しているのか、統計的に検証なんて、誰ができるでしょう? まあやってもほぼ無駄ですし、あまり考える意味もないと個人的には思います。

「あの人が先行している」とか「ああ、私、あの人に追い抜かれている」というのは、あなたのモチベーションを上げるには役に立つ認知ですが、現実に起こっているとはとても言いにくいことだろうと思います。

 あなたは誰かに追い抜かれているどころか、むしろあなたのように目標を達成してなお、もっと前に進みたいと考え続けていらっしゃる姿を、本当にすごいな、立派だなと敬意を持って仰ぎ見る人が中野も含めてたくさんいるということをぜひ、折に触れて思い出してほしいなと思います。

text:Atsuko Komine

#3では、ゲストに俳優・松重豊さんを迎え、「セリフ覚えが悪い」という悩みに中野さんがお答えします。

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