「好きな人の肉体を食べて、自分の体に取り込み、一つの生命体になりたい」
身勝手な欲望から、かつてファンだった地下アイドルの女性を殺害した37歳の男性。彼が異常な犯行に及ぶまでにいったい何があったのか? この恐るべき事件の顛末を、ノンフィクションライターの諸岡宏樹氏の著書『実録 性犯罪ファイル 猟奇事件編』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全3回の2回目/最初から読む)
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被害者が「地下アイドル」になった理由
有希さんは自分で稼ぐ方法を考えようと、地下アイドルになろうと思った。2歳年上の姉とともにメイクして撮った写真をインスタグラムに上げたところ、それがイベントプロデューサーの目に留まり、6人組のアイドルグループのメンバーとしてデビューすることになった。
だが、それも思ったより稼げないと分かると、3カ月で脱退し、主に個人のSNSで活動する地下アイドルになった。
イベントがあれば、ライブも開催した。自分のチェキ写真を売ったり、Tシャツなどのグッズをサイン入りで売ったり、ファンとの交流で徐々に人気を高めていった。通販サイトで欲しいもののリストを作成し、リンクを張って提示し、それを買ってくれたファンには動画でお礼のメッセージを送った。だが、このようにファンとの距離が近すぎるのを有希さんの兄や姉たちは懸念していた。
有希さんは18歳になる少し前、特定のファンと交際するようになった。有希さんの一番上の姉はそれを心配し、「帰宅時間を守らせること」「遅れる際は連絡すること」を相手に要求した。
事件の1年3カ月前、有希さんはその相手と同棲するようになった。
そんな事情はつゆ知らず、それからまもなく出会ったのが渡辺だった。
渡辺は家庭に恵まれなかった有希さんに同情し、それでも健気に夢に向かって努力している姿に共感して応援するようになった。
グッズを買うばかりではなく、直接金銭を渡してアイドル活動を支援した。有希さんもそんな渡辺に特別な感情を抱いたのか、2人きりで会うようになり、ついにはホテルにも行くようになった。渡辺は年の離れた“彼女”に夢中になっていた。