かつて美容師から風俗嬢に転職した佳菜子さん(仮名・37歳・パート社員)。自身の努力で3日間で100万円を稼ぐほどの風俗嬢になれたにもかかわらず、彼女が引退を決めた理由とは? 夜の世界で孤立・困窮している女性たちための支援活動を行う坂爪真吾氏の新刊『風俗嬢のその後』(筑摩書房)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)
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風俗は「夢をかなえる場所」
「最初に売れない時期があったからこそ、天狗にならずに済んだのかもしれません。お客様の中には、3日間通して指名してくれた人もいました。私が娘さんと同じ年齢で、同じような名前だったそうです。3日間、一緒に色々なホテルを回ったり、食事したり、お酒を飲んだりしました。料金は72時間で100万円以上だったのですが、キャッシュで支払ってもらいました。
引っ越したばかりのお客様の家に呼ばれて、『布団がないから、毛布の上で』と言われたこともありました。家族や同居人がいない時に、自宅に呼ぶ人も多かったですね。接客中に帰ってきたらどうしよう、とひやひやしましたが……。
年齢は、18歳から70代まで、幅広い年代のお客様がいました。高齢のお客様は、勃起しきらない状態で、思わぬ瞬間に射精されるんですよね。風俗初体験の若いお客様が、プレイ後に緊張が解けたのか、お風呂場で仰向けにバタンと倒れてしまったこともありました。
私に官能小説を朗読させて、目の前でオナニーを始める人、戦隊モノのピンクレンジャーの衣装を持ってきて『これを着て、攻めてほしい』と依頼してくる人、お尻の穴にどこまで腕が入るのかを試したい人など、様々な性癖や趣味の人に出会って、人の探究心には終わりがないんだな……と感じました。
風俗は、男性がピュアで、無邪気でいられる場所。自分が主役になって楽しんで、帰っていける楽園のような場所だと思います。楽園にするためには、こっちから誘導してあげる必要がある。どんなことができたら、その人にとっての楽園になるのかなと考えて接客していました」
収入が大幅に増えたことで、生活には全く不自由しなくなり、稼いだお金を貯金や趣味に充てることもできるようになった。
「稼いだお金は、生活費や貯金の他に、趣味のロードバイクなどにも使っていました。ペットの猫は一番多い時で4匹いて、旅行に行く時も、費用を気にせずにペットホテルに預けることができました。
またお客様から勧められてスキューバダイビングを始めて、県内や全国のあちこちに潜りに行きました。旅行に行った先では、仲間から『なぜ20代の女の子が、スキューバにこれだけのお金を使えるのか』と聞かれました。船の往復代やレンタルする機材などで費用がかかるので、趣味としてやるには、会社員の収入では厳しい。
毎月沖縄や小笠原のツアーに行けるのはなぜ? と聞かれて、仕事の話をしたら、びっくりはされたけれども、全く知らない世界ということで興味を持ってくれました。その後に関係が悪くなることもなかったです。私自身も、話せる相手ができて安心しました」