かつて美容師から風俗嬢に転職した佳菜子さん(仮名・37歳・パート社員)。最初はいきなり灰皿が飛んでくるような環境に驚いたものの、真面目な性格ゆえか着実にファンを増やしていった彼女。いったいどうやって月収100万円超えを達成したのか? 夜の世界で孤立・困窮している女性たちための支援活動を行う坂爪真吾氏の新刊『風俗嬢のその後』(筑摩書房)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
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佳菜子さん(仮名・37歳・パート社員)は、高校卒業後、美容師の専門学校に進学。生まれ育った土地を離れて、都市部で一人暮らしを始めた。専門学校を卒業後、美容室で働きはじめたが、人間関係やメンタルの問題などが重なり、1年でやめることになった。
これからどうやって生きていこうか
「現在、私は大人の発達障害のADHD(注意欠陥・多動障害)の診断を受けています。美容師として働き始めて1年ほどで、うつ状態になってしまい、休職した後に退職しました。まだ22歳だったので、これからどうやって生きていこうか……と悩みました。発達障害に関する情報も、社会的な認知度も全くない時代だったので、障害年金などの頼り方もわかりませんでした。
途方に暮れて、ひとまず、当面の収入を得るために『高収入アルバイト』として求人を出していたコンパニオン派遣の仕事の面接に行きました。そしたら、面接が始まるなり『うちはデリヘル(デリバリーヘルスの略。派遣型の性風俗店)もやっているけど、どう?』と勧められました」
突然の誘いに対して、いったんは断ったが、やはり生活をしていくためには収入が必要だと感じて、後日自分から「働かせてください」と連絡した。働き始めた店は、標準的な価格帯のデリヘルで、普通の店よりもちょっときれいめのお姉さんが来てくれる、という点を売りにしていた。
しかし、店の空気は悪く、突然スタッフ同士で殴り合いが始まることもあった。
「いきなり灰皿が飛んできたり。右も左もわからなくて、私は本当にここにいてもいいのかな……と不安になりました」
出勤初日、スタッフから百円ショップで売っている薄い袋を渡されて、「いってらっしゃい!」と言われた。袋の中には、ローションとグリンス(殺菌消毒薬用せっけん液)とうがい薬が入っていたが、スタッフからは何も説明がなく、どの道具をいつ・どうやって使えばよいのか、さっぱり分からなかった。
最初の客は、風俗未経験の新人しか呼ばない、という男性だった。シャワーを浴びようとしたら、「客から受け取ったお金や、自分の財布などの貴重品は、部屋の中に置きっぱなしにしちゃダメ」「貴重品は常に肌身離さず、シャワー室にまで持っていかないと、危ないよ」と丁寧にアドバイスされた。
働き始めた時は、客から「本番(性器への挿入)させて」「みんなしているよ」と言われることが多く、心が折れそうになった。慣れてくると、あしらい方も身について、「これは挨拶代りなんだな」と思えるようになった。
接客の方法についても、店からは全く教えてもらえず、何をどうすればよいのか分からなかった。「素股」というサービスの方法もよくわからず、店のスタッフに聞いたら「お客さんに教えてもらって」と言われた。
「でも、お客様が教える素股は、怪しいんですよね……。自分が何も教えてもらえなかったので、新しく入ってくる子には、色々教えてあげたい、と思うようになりました」