「日本の職場はこんなになっているのか、なんだか70年以上前と似ているなあと、とほほな気分になります」

 劇作家の鴻上尚史さんが気づいた「ブラック企業」と「特攻隊」の共通点とは? 鴻上さんが週刊SPA!で連載した「ドン・キホーテのピアス」から、選りすぐりのエッセーを集めた『世間ってなんだ』より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)

70年以上前の特攻隊と現代のブラック企業。何が似ているのか? ©文藝春秋

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特攻隊と残念な職場

『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)を出された河合薫さんから対談の指名を受けました。

 ブラック企業やブラックバイトと『不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか』(講談社現代新書)が似ているという理由からです。

『残念な職場』を読んで、なんだか情けなくて笑ってしまいました。河合さんは、いろんな職場の調査や相談を受けているので、じつにケースが具体的です。そうか、日本の職場はこんなになっているのか、なんだか70年以上前と似ているなあと、とほほな気分になります。

 だいたい、1時間当たりの労働生産性がOECD加盟国中20位、主要先進国7ヵ国中最下位(2017年)なんですからねえ。つまりは、休暇を満喫し、愛を語らい、人生を楽しんでいる(に決まっている)スペインやイタリアより低いんですから、日本人はなんのために長時間労働してるんだあ! と叫びたくなりますね。

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 特攻は最初、艦船を沈めることが目的で死ぬことを選んだのですが、やがて途中から、「死ぬ」ことが目的で、艦船を沈めることは二の次になりました。9回出撃して9回帰ってきた佐々木友次さんは「とにかく、死んでこい!」と何度もののしられたのです。

 これなんか、仕事を仕上げるために残業していたのに、いつのまにか「残業すること」が目的になってしまった職場と似ています。上司がいるから仕事が終わっているのに帰れないとか、定時に帰っているとなんか言われそうで怖いなんて職場です。

 初期の特攻に対して、アメリカ軍はすぐに対応策を打ちました。レーダー網の充実、戦闘機の増配備です。

 事実をちゃんと見つめたのです。

 特攻の成功率がどんどん減っていく中、日本軍は事実を見つめませんでした。精神力さえあれば、結果はついてくると信じたのです。

 バブル崩壊後、「銀行の不良債権」というレポートを発表したイギリス人経済アナリストのデービッド・アトキンソン氏のことが『残念な職場』では紹介されていました。

 このレポートでは、不良債権の総額を当時の大蔵省や銀行の試算を大きく上回る20兆円として「銀行経営の喫緊の課題は不良債権」としました。が、発表されるや「そんなわけがない!」「日本経済を潰す気か!」とバッシングの嵐が起きました。それに対しアトキンソン氏は「日本人はファクトを見ようとしない」と反論したのです。