文春オンライン

2022/10/15

 そして、このレポートに沿って調べていくと不良債権の山が見つかったのです。正確な数字は未公表ですが、一部では20兆円をはるかに超える額だったとも報じられています。

 日本人だって、見る時はちゃんとファクトを見ます。見なくなるのは、「見たら大変なことになる」予感がする時だけです。アジア・太平洋戦争の初期は、ちゃんと現実を調査・把握していました。見なくなるのは、ミッドウェー海戦以降の負け始めてからです。この時は、リアルではなくファンタジーにすがりがちになるのです。とほほほ。

トイレに行く時間が決められている職場も…

 以前、若い女性の過労自殺が問題になっている時に、「月当たり残業時間が100時間を超えたぐらいで過労死するのは情けない」と某大学教授がコメントして炎上したことがありました。

 これに対して河合さんは、「裁量権」のあるなしは、極めて重要な問題だと言います。

 大学教授という職には、裁量権(自分で決める自由)が一般的なビジネスマンよりはるかに多いのです。休む時間、がんばる時間、その配分がわりとコントロールできます。つまりは、自分の体調と精神に対して自分で責任が取れるのです。

 けれど、裁量権の少ない職場は、たとえ残業時間が少なくても過酷なものになります。

 定時に帰れても、トイレに行く時間が決められている職場は(実際に珍しくないですが)肉体的にも精神的にもハードになります。

写真はイメージです ©iStock.com

 熟練パイロットだった佐々木友次さんが、9回の出撃命令を受けながら、落ち込まず、絶望せず、不条理な罵声に耐えられたのは、パイロットという「裁量権」の多い任務だったからではないかと僕は思っています。

 階級が上であろうが下であろうが、大空に飛び立てば技量だけがすべてになる。

 そこで、佐々木さんは、束の間の自由を満喫したのではないか。

 その時間が佐々木さんに勇気と力を与え、ブラックな組織で生き延びられたのではないかと思っているのです。

(2018年5月)

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