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地方都市に必要な「3つの新条件」

 では、「自然が豊か」「食べ物がおいしい」「人情がある」だけで、地方都市が東京から脱出してくる人たちの受け皿になる資格はあるだろうか。残念ながら、日本はほぼどの地方にいってもこの3条件を満たす地域は山のようにある。

 地方都市の未来は次に掲げる新たな3つの条件を揃えることだ。

 ひとつが地域に絶対のキラーコンテンツを持つことだ。神奈川県の湘南エリアは今、東京生活から脱して、居を移す人が多い人気エリアだ。このエリアの絶対的価値は、南に向けて大きく開けた(一日の大半が陽光に輝く)海岸線と、江の島、えぼし岩、富士山という景色における唯一無二のキラーコンテンツがある。ヨット、サーフィン、フィッシングといったマリンスポーツはもちろん、この海を愛でるためのあらゆるコンテンツが集結している。お洒落なカフェやバー、飲食店。なんにでも「湘南」とつければ売れてしまう強力な食品ブランド。そして湘南を褒めたたえるサザンオールスターズやTUBE、湘南乃風といったアーティストたちの存在。コンテンツは複合され、人々の憧れを醸成する。

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©iStock.com

 ふたつには地元人とよそ者が50対50でつきあえる対等性だ。日本の中ではべつに東京人だけが偉いわけではない。だから東京を押し付けられても「へー、東京ってそうなんだ」といえる対等性だ。地元愛の強い街では、東京は東京、地元は地元で、決してへりくだることもなければ、逆に我を張ることもない。またよそ者はよそ者としてちゃんと受け入れる寛容性を持っている。そしてこれは外国人に対しても同じように受け入れることができる柔軟性だ。こうした「敷居の低さ」と「受け入れることができる度量」が、地方都市の未来を描く。地方愛とは自分の地域のものだけを愛でるものではない。それは勝手宗教のようなもので、多くの人の共感を得るのは難しい。他者の価値も認めつつも、おのがものとの対比ができ、よいものは取り込んでしまう、この柔軟性にこそ、人を集める魅力が秘められているといえよう。

 そしてみっつめには、一日、ひと月、一年の生活シーンが街の中で循環できるということだ。東京や大阪、といった大都市に寄生するのではなく、街の中で暮らしていくすべての機能が備わっていることだ。これまでは、なかなか叶わなかった条件だ。つまり街の中に十分な「仕事場」がなかったからだ。ところがこれからは、「働く場」は自宅内であり、街中にちょっとしたコワーキング施設があれば、働く会社の籍は東京にあったとしても、その日、その月、その年をすべて、同じ街で暮らすことができる人々がこれからは圧倒的に増える。街内循環が確保され、たとえ街を出ていく人があっても、もっと大勢の人が街にやってくる、人の新陳代謝が確保できる街になることができれば、必ずしも有名観光地である必要もなければ、作るのにいくらかかったのかもわからない、変なゆるキャラに頼らなくても、人は集まり、地域、地方を愛するのである。

 そうした意味ではこれからの衛星都市、地方都市の中から新しい芸術や文化を奏でる街が出現する可能性が高くなってくる。そんな未来の日本を期待してやまない。