2021年7月、カラオケパブ「ごまちゃん」の常連客だった宮本浩志被告(57)がオーナーの稲田真優子さん(当時25)を刺殺した事件。大阪地裁は10月20日、殺人の罪に問われていた宮本被告に懲役20年の判決を言い渡した。

 起訴内容について黙秘を続けながらも、自ら「死刑でお願いします」などと繰り返し発言していた宮本被告。なぜ、凄惨な事件は起きてしまったのか。事件当時の様子、宮本被告の“裏の顔”、遺族の悲痛な叫びを報じた「週刊文春」の記事を再公開する。(初出:「週刊文春」 2021年7月1日号 年齢・肩書き等は公開時のまま)

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 6月14日午前10時半頃、大阪・JR天満駅に程近い雑居ビルの5階。馴染みの店の扉を開けると、集まった知人たちは声を失った。

 廊下から入る光に浮かび上がった、仰向けに倒れた血塗れの女性。周囲には引き抜かれた髪の毛が散乱し、顔には白いタオルがかけられていた。彼女と連絡が取れなくなってから、3日後のことだった――。

 6月18日、大阪府警は兵庫県西宮市に住む会社員・宮本浩志容疑者を、大阪市北区にあるカラオケパブ「ごまちゃん」のオーナー・稲田真優子さん(25)を殺害した容疑で逮捕した。

宮本容疑者(左)と稲田さん

「稲田さんは刃物で首の右側と左肺を貫通するほど深く刺され、全身に十数カ所の切り傷があった。死因は失血死。手には防御創もあり、相当激しく抵抗したと見られます」(社会部記者)

 事件当日の6月11日、最後の客となった宮本は、午後9時過ぎに稲田さんと従業員に見送られて一度退店している。だが、実際にビルから出る姿が入口の防犯カメラに映っていたのは、従業員が退勤した後の午後10時頃だった。

 ビルの元従業員が語る。

「エレベーターの近くに階段があり、踊り場に身を潜めていれば廊下からは気づかれない。店の出入りを確認しながら、相手が1人になるのを待っていたのでは」

 今年1月にオープンしたばかりの「ごまちゃん」は、稲田さんが苦労の末に実現させた夢の店だった。学生時代からの知人が語る。

「彼女は尼崎の出身なんだけど、実家の家計を支えるために高校もほとんど行かず、ガソリンスタンドや葬儀屋、クレープ店などバイトを転々としていました。その後、20歳のときから天満駅近くのカラオケバーAで働き始め、そこで開店のためにお金を貯めていた」

 Aの常連客は稲田さんの印象をこう語る。

「身長は150センチぐらいと小柄ですが、堀北真希に似た美人です。お客さんがいない時は冬でもガウンを着て、『来てください』って朝方までチラシを配っていました。客の趣味に合わせてコアなビジュアル系バンドの曲やアニメソングを歌ったりと、接客も丁寧で人気者でした」

 休みなく働く傍ら、高卒認定試験にも合格。通信制の大学で学び、心理療法士を目指したこともあった。

 一方の宮本は西宮市で育ち、地元の公立小・中学校に通った。父親は弁理士で、大阪のミナミに事務所を構えていたという。中学時代の同級生が振り返る。