みなと町・神戸の山あいに“廃墟の女王”と呼ばれる廃墟がある。1929年に建設された摩耶観光ホテル、通称マヤカンだ。
現代の機能的なホテルと違い、丸みを帯びた建物や丸窓など、曲線が多用されたデザインが、古き良き時代を感じさせる。栄華を極めたであろうホテルが廃墟となり、木々の間にひっそりとたたずむ姿は、見る者の心を鷲掴みにする。
廃墟愛好家の間では、長崎県の軍艦島と並んで日本を代表する魅力的な廃墟といわれており、軍艦島を“廃墟の王様”とするなら、どこか女性的な印象を受けるマヤカンは“廃墟の女王”と称されることもしばしばだ。そんなマヤカンは非常に魅力的な廃墟であるものの、現在は厳重に管理され、無断で立ち入ることはできない。今回は特別に許可をいただき、内部を見学することができたので、探索したもようを紹介する。
普段は入れない“廃墟の女王”の内部に潜入
柵の鍵を開けてもらい、古びた階段を歩く。山の中に、コンクリートの建物が見えてきた。マヤカンだ。
入り口から見ると、小ぢんまりとした建物に見えるが、これは、マヤカンが山の急斜面に建っているためで、実際には斜面の下に巨大な建物が隠れている。
機械警備を解除してもらい、まっすぐ建物に入ると、そこは最上階の4階だった。急斜面に建つ旅館などではよくあることだが、最初はちょっと戸惑ってしまう。
マヤカンに入ると、いきなりこの建物最大の空間が広がっていた。かつては映画が上映されることもあった余興場だ。400人を収容した割には手狭に感じるが、天井が高く、閉塞感はない。
船を意識してデザインされたという屋内は、全体的に丸みを帯び、マヤカンのシンボルともいえる丸窓が多用されている。蛍光灯を縦に配列した照明など、細部にも意匠が光る。