階段で3階に下りると、大食堂と娯楽場、そして浴場がある。かつては温泉を売りにしていた時代もあるためか、建物内には大小様々な浴場がたくさんある。これは、時代とともに営業形態も変遷し、大きな展望浴場を潰して小さな浴場をたくさん造ったためだ。湯船の上に板を張って床にした部屋は、元々展望浴場だっただけに眺望が素晴らしい。外壁が丸みを帯びた曲線となっており、窓の外に見える緑ともマッチしている。特に廃墟美を感じさせるこの部屋は、マニアの間で"額縁の間"と呼ばれている。
2階は洋室、1階は和室の客室で、計13室ある。2階から1階へ下りる階段は、なぜかコンクリートで閉塞されているため、いったん外に出て回り込む必要がある。
山の斜面を下っている時、はじめて建物全体を見渡すことができた。
外壁が曲線を描き、窓もそれに追従している。うっとりとする外観は、廃墟の女王の称号に相応しい。
文化財に登録されている建物だが……
有形文化財に登録され、機械警備と監視カメラで24時間管理されているマヤカンだが、1階と2階の客室部分には、文化財という雰囲気は全くない。
床は抜け落ち、瓦礫が転がっていて、どこからどう見ても廃墟だ。マヤカンもれっきとした廃墟なのだと再認識できる場所で、この光景に私としては少し心が和んだ。抜けかけた廊下の床を、根太の上を選んで慎重に歩く。廃墟は見た目の魅力もさることながら、こうして探索している時のワクワク感もたまらない。
4階に戻ると、屋外のテラスに出てみた。かつてはビアガーデンにもなっていたテラスからは、神戸の街を一望できる。都市の眺望から、廃墟へと視線を戻す。割れてしまった窓や崩れてしまった壁が、この建物が廃墟であることを物語っている。繁栄していた当時の姿を想像し、静寂に包まれた現在の姿と重ね合わせて、思いを馳せる。