東京・池袋の高層ビル「サンシャイン60」のレストランで16日夕に発生した乱闘騒ぎ。準暴力団の「チャイニーズドラゴン」のメンバーが加わっていたとされ、仲間の出所祝いのため100人規模で集まっていたようだ。

 彼らは「半グレ」とも称される集団で、山口組などの「指定暴力団」と違い、暴力団対策法などの網にかからないため、取り締まりることが厳しい。

 前身の「怒羅権」は1980年代後半に中国残留孤児2世グループによって結成され、ヤクザも警察も恐れた最強不良集団だった。

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 そんな“暴力に満ち溢れた”世界に生きる中国残留孤児2世の生態や行動原理とはどのようなものなのか――。「怒羅権」初代総長であり、10年に及ぶ服役を経験した佐々木秀夫(ジャン・ロンシン)氏の著書『怒羅権 初代』(宝島社)の抜粋記事を再公開する(初出2022年2月21日、肩書き、年齢等は当時のまま)。

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 ただならぬ気配からその言葉は噓ではないと直感した。

「大丈夫か? 何があったんだよ」

 私たちはIの周りに集まって口々に声をかける。

 先ほど自分の身に起きた出来事をIは少しずつ話し始めた。

「大勢に囲まれて、鉄パイプでボコボコに殴られた……。袋叩きにされているとき佐々木が見えたんだけど、押さえつけられて身動きができなくなっていて……。ヤバい、このままだとこいつらに殺される……もう、無我夢中で……、とっさにナイフを抜き、刺したんだ……」

 ひと呼吸置いて、私はIに話の続きを促した。

「――それで、相手はどうなったんだ?」

「刺さったナイフを抜こうとしたんだけど……ナイフの背にギザギザがあるだろ? あれがあばら骨に引っかかり、うまく抜けねえんだ。クソッ、抜けねえって、グリグリ回していたら……、俺に任せろやって、今度は違うやつが襲ってきた……。反射的に、刺さっていたナイフを無理やり引っこ抜いて……そいつもブスッと刺して……」

写真はイメージです ©iStock.com

「ナイフのギザギザのところ……そこに、肉片がいっぱいくっついているんだよ……」

 ごくり、と唾を飲み込む音が聞こえた。

「そうしたら、ナイフのギザギザのところ……そこに、肉片がいっぱいくっついているんだよ……。あいつ、死んじゃったかもしれない……」

 不安顔に接した私はとっさに慰めた。

「心配すんな、何度も刺したことがあるからわかるんだ。人間はそんなに簡単には死なないよ」

 それは本心であったし、実際にはそれどころではなかったのだ。私も散々にやられている。顔も体も傷だらけだった。それは現場からいち早く離脱した者を除けば、誰もが一緒だった。私とIだけではない。相手だってそうだったであろう。だがしかし、相手の心配など長続きはしなかった。

 相手への瞬間の同情は、永続する恨みへのスパイスだ。若さとはそういうものだった。眠る直前に考えたことは、どうやって仕返しをしてやるか。それは間違いなく、Iも同じだった。実際にそれは、後日実行されることになる。

 Iの話に出てくる「ナイフの背のギザギザ」とは鋸のこぎり刃のことだ。

 鋸刃はセレーションと呼ばれている。