『相棒』というドラマの“相棒”を交代する大英断
それにしても、『相棒』というドラマの“相棒”を交代するとは。一歩間違えればシリーズの終了につながりかねない、とてつもない大英断をよくやったものだと改めて思う。
振り返ると、亀山薫=寺脇康文の卒業は『相棒』にとって最大のターニングポイントであったことは間違いないだろう。しかし、それは結果的に奏効し、『相棒』はそこからさらに国民的人気を誇る超人気シリーズへと成長していった。
先出のインタビューで水谷はさらに寺脇との関係について「僕は別に何かを教えようという気持ちは特にありません。本能的にでもいい、何か感じたことをまずは大切にしないといけない。彼との日々はそんなことの日々だったと思います」と語っていた。
今思えば、彼から差し出された右手には「これからの『相棒』をよろしく」とともに「俳優・寺脇康文をよろしく」という想いが込められていたのではないだろうか。
語らずして気持ちを伝える俳優・水谷豊
私たちは不安や自信のなさから、自分の言葉が本当に伝わっているのか確かめたくて、つい多弁になってしまいがちだ。しかし、それは本当に相手を思ってのことなのだろうか。手っ取り早く自分が安心したいために、相手に責任を押しつけてはいないか。
語らずして伝える――。
信じるからこそ、黙って委ねる。言葉にすることは簡単だが、なかなかできることではない。そんな彼が一度送り出した相棒を再び迎え入れるのだから、そこには並々ならぬ覚悟と決意があるに違いない。私たちには最後まで見届ける義務がある。
軽妙洒脱さの裏に潜む、玉鋼のような強靭な意志。水谷豊とはそんな俳優なのである。