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結婚10年目で“女性になりたい”と打ち明けたトランスジェンダー当事者(56)が直面した、周囲の反応「『あそこの社長おかまになったんやって』と噂が…」

今西千尋さんインタビュー#2

genre : ライフ, 社会

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“男性”として結婚することを決めた理由

――千尋さんは幼少期から「女性として生きていきたい」という気持ちがあったとおっしゃっていましたが、博子さんとの結婚はどういった経緯だったのでしょうか。

今西 父の会社に入社した26歳の時に、もうそろそろ結婚しなあかんなと思いました。「あそこの長男もうそろそろちゃう?」っていう周りからのプレッシャーもありましたから。

 ちょうどいいタイミングで、知人から博子さんを紹介されて。彼女は私と違って、自分に自信があって、やりたいことをやっていた。そういう人間性に魅了されて結婚を決めました。

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――結婚後もご自身の中で性別に対する葛藤はありましたか。

今西 ありましたね。女性用の服はこっそり着ていましたし、出張のついでに新宿二丁目の女装スタジオに行って、写真を撮ってもらったりしていました。

――周りに相談されたりはしなかったのでしょうか。

今西 アウティング(ある人のセクシュアリティを許可なく第三者に言いふらしたり、SNSに書き込むこと)されるのが怖かったから、誰にも言ってなかったんです。ただ唯一、同業者の社長にだけ相談しました。

 たまたま会った時に、女装スタジオで撮った写真を見せながら、「社長。私、女性になろうかと思ってるんです」と伝えたら、「今西さん。それはやめといた方がいいんじゃないか」と。

着付けが得意だという今西千尋さん(56)

 それを言われて、「ああ、やっぱりそうなんや。女性として生きていくことは、無理なんや」と思って。また、自分の気持ちを押し殺しながら生きていくことを決めました。

 私が女性になることで、私自身の気持ちは救われるかもしれないけど、他の人はみんな振り回されてしまいますから。ずっと男性として生きてきて、家族もいるのに今更女性になるのはあまりにも現実的じゃないと思っていました。

――カミングアウトはしないと決めたものの、前編でおっしゃっていたように、博子さんに女性用の衣服が見つかり、そのタイミングで打ち明けたと。もしそのきっかけがなかったら、今でも打ち明けていなかったと思いますか。

今西 いえ、きっとそれはきっかけに過ぎなくて、どこかのタイミングで打ち明けていたと思います。自分を騙しながら生きていたけど、我慢の限界もきていましたから。

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