幼いころから自らの性に違和感を持ちながらも、“男性”として生きてきた今西千尋さん(56)。28歳で結婚し、2児の父親となる一方で、「女性になりたい」という気持ちは日に日に強くなり、46歳の春、女性として生きていくことを決意しました。

 本来の性を取り戻すまでの道のりや周囲からの偏見と差別、家族の苦悩などこれまでの人生について詳しく話を聞きました。(全2回の1回目/後編を読む)

性別適合手術を受ける前の今西千尋さん (本人提供)

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結婚10年目のカミングアウト

――千尋さんは結婚から10年が経った時、博子さんに「女性として生きていきたい」とカミングアウトされたとおっしゃっていました。そのきっかけは何だったのでしょうか。

今西 物心ついた時から自分の性別に違和感があって、親に隠れて女性用の服を着ていました。結婚してからもやっぱり、女性になりたいという気持ちはずっとあって、家族に隠れてこっそりと女性用の下着や洋服を身につけていたんです。

今西千尋さん(56)

 その下着や洋服を自分のタンスやカバンの中に隠していたんですが、ある時博子さんがたまたまカバンの中から女性用の下着を見つけて。「お父さん。この下着はどういうことなん? もしかして浮気とか?」って。

――他に相手がいると思われたと。

今西 浮気していると勘違いしていたんでしょうね。その時に、これは正直に話すしかないと思って、「これは私のものです……」と打ち明けました。博子さんは、戸惑いつつも、私が前から育児や家事を熱心にしてくれていた人だからと、なんとか受け入れようとしてくれました。

 ただ、ちょうどその日が、四国に家族旅行に行く前日だったんです。子どもたちもいたので、博子さんは私のカミングアウトについてはあまり考えないようにしていたみたいです。お互いに頭に重いものを抱えながら過ごしていましたね。

――博子さんとしては、そのカミングアウトは到底受け入れられるものではなかったと。