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戸籍を女性に変えない理由

今西 博子さんから「戸籍だけは男性でいてほしい」と言われたんです。私が男性であるから好きになって、男性であるから結婚したと。体は女性になってしまったけど、博子さんは私のことをどこか男性として見ている部分もあって。私の男性としての記号って今は、戸籍の性別しかないから、それが彼女の拠り所になっているんだと思います。

 博子さんがそういうならと、戸籍の性別は今でも変えていません。でも、一生変えないと決めているわけではないです。20〜30年後、棺桶に片足突っ込むような時になったら、最後の最後は女性になって、女性として死にたいという気持ちもあります。

――戸籍の性別が男性であることで、不自由を感じることはあるのでしょうか。

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今西 今の時点で戸籍が男性だからといって不便なところはあまりないんですよ。強いて言うなら病院くらいで。

――男性として扱うべきか、女性として扱うべきか、ということですか。

今西 そうです。体は女性だけど、戸籍は男性だから、病院としては判断が難しいんです。昔、入院した時に主治医から「女性用の部屋か男性用の部屋か、どっちがいいですか?」と聞かれたことがあって。

「できれば女性用の部屋がいいです」と言ったんですけど、一向に返事が返ってこなくて。少し経って先生から「病棟に掛け合っていたんだけど、今までにない例だから判断に時間がかかってます。できれば個室でお願いできませんか」と言われました。

2018年の写真 (本人提供)

 個室だとその分、個室料金が取られるので入院費が高くなるんですよ。「個室はちょっと……。それなら男性の部屋でもいいですよ」というと、「差額はいりませんから」って個室に入ることになったんです。

 病院側に面倒かけて申し訳ないなと思いました。やっぱり特例だから向こうも対応方法がわからない。もし私が戸籍上も女性であれば、最初から女性の部屋になっていたと思うんです。そういう面では少し大変だなと思いますね。

 あとよく言われるのが、公共のトイレやお風呂をどうするか、ということです。女性か男性かを判断するのは、戸籍によるのか、見た目によるのか、難しい問題だと思います。私の場合は、トイレは基本的には女性用に入っています。トラブルを避けるために、公共のお風呂には極力行かないようにしています。

今西千尋さん(56)

――LGBTQについての発信も増えてきていますが、当事者として今感じることは何でしょうか。

今西 LGBTQっていう言葉は認知されてきてはいますけど、実情を知らない人は多いと思います。当事者が身近にいなかったら、わからないのは当然のことです。それにLGBTQの当事者でも考え方はそれぞれで。隠したい人もいれば、オープンにしたい人もいて。だからこそLGBTQとして見るのではなく、個人として向き合っていくことが重要だと思っています。

 そのためには、難しいですけど、お互いがお互いの考えを理解することが必要だと思います。私たち当事者も周りの人に理解してもらうために、努力をしないといけない部分もある。

 だからこそ、私ができることは、私の考えについて1人でも多くの人に知ってもらうことだと思います。私の体験談を話すことで誰かの力になったら嬉しいですね。

写真=山元茂樹/文藝春秋

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