日本最先端の治療や研究を担う国立国際医療研究センター病院が、心臓外科手術による医療事故死に関する調査を2年近くにわたって拒否し続けていたことが、ジャーナリスト・長谷川学氏の取材でわかった。遺族が取材に証言した。

 国立国際医療研究センター病院は、高度専門医療を提供する日本有数の総合病院。特に感染症治療では司令塔的な役割を担い、志村けんら数多くの著名人も入院してきた。岸田政権は国立感染症研究所と統合させ、日本版CDC(疾病対策センター)を発足させる方針を示している。

 国立国際医療研究センターの國土典宏理事長は、日本外科学会理事長や、医療事故の調査を担う第三者機関である一般社団法人「日本医療安全調査機構」の理事を歴任。群馬大学病院で腹腔鏡手術の後に8人が死亡した事故が発覚した際には、調査の必要性を厳しく指摘していた。

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国立国際医療研究センターの國土理事長(センターのHPより)

 そんな國土氏率いる日本最先端の国立国際医療研究センター病院で起きた“死亡事故”が今、波紋を広げている。

執刀医は「凄く簡単な手術で失敗したことがない」

 Aさんの兄(70代前半)が、僧帽弁閉鎖不全症(左心房と左心室の間の僧帽弁がきちんと閉じない病気)の手術を受けたのは、2020年12月10日のことだった。執刀医は心臓血管外科診療科長。通常の胸骨切開手術ではなく、右胸の肋骨の隙間から特殊な器具を入れる低侵襲心臓手術(MICS)が行われた。

僧帽弁手術の図解(髙本氏の論文より)

 Aさんが振り返る。

「執刀医は『凄く簡単な手術で失敗したことがない。4時間で済み、年末には退院できます』と自信満々に話していました。ただ、術中は心臓を止め、人工心肺を回さなければなりません。しかし、手術は延々11時間に及び、兄は心筋梗塞を起こしたのです」

 別の大学病院に転院したものの、手術の約2カ月後の昨年2月3日、Aさんの兄は帰らぬ人となった。