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「腹腔鏡は小さな穴から手術するので、動きが制限され、処置がやや雑になります。また、腸を吻合(ふんごう)するのにステープラー(ホチキスのような自動縫合器)を使いますが、かたちが歪(いびつ)になることも多いのです。開腹なら0.5ミリ単位の細かい手術ができ、必要に応じた微調整もすぐできます。腸を吻合したところも、内視鏡で見てもわからないぐらいきれいです」

 ただし、高橋医師は「腹腔鏡にしろ、開腹にしろ、質の高い手術を受けるべきです」と話す。奥田医師も、「腹腔鏡は開腹以上に技術格差が大きいことに注意すべき」という。どちらを選ぶにしても、その手術の執刀経験が豊富な医師の手術を受けることが肝心だろう。

 直腸がんでは、肛門温存が大きな課題となる。近年は肛門にかなり近いがんでも、括約筋の一部を残して切除する方法が普及し、人工肛門になる患者がかなり減った。おなかの皮膚に腸をつないで出口をつくり、袋で便を受ける人工肛門は、便を定期的に処理する煩わしさや、においが気になるなどの問題点がある。

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 だが、渡邊、高橋、奥田医師とも「肛門を残すことにこだわり過ぎるべきではない」という意見では一致した。肛門を温存すると多くの人は術後1年ほどで安定するが、なかには、1日に10回以上トイレに行くようになる人もいるからだ。また、それ以上に再発した場合が辛いという。

「他院で肛門温存手術を受けたものの、再発して肛門周囲から腫瘍が顔をだした人や、坐骨神経痛が出て動けなくなった人を時々見ます。なにより、再発したら命の保証がありません。人工肛門はきちんと処置すればにおいませんし、普通に生活して、好きなものも食べられます。肛門温存にこだわるよりも、がんを取り切ることを第一に考えるべきです」(高橋医師)

 大腸がんは薬物療法も発達した。05年に「オキサリプラチン」という抗がん剤が承認され、進行・再発大腸がん患者に、3剤を併用する新しい治療法が使えるようになった。聖マリアンナ医科大学病院腫瘍内科部長の中島貴子医師は、国立がんセンター中央病院(当時の名称)に勤務していた当時のことを「衝撃的だった」と語る。

「この薬の承認を待っていた患者さんが、一斉に治療を受けにやってきました。その後、新しい薬や治療法が次々登場し、今や進行・再発がんでも、2年以上の時間をつくれるようになっています。肝転移のある患者さんでも腫瘍が縮小して、手術できる確率が高くなりました。大腸がんは生き延びるチャンスが増えたのは確実です」

所属は2016年6月現在

■理想の治療のための5つのポイント
(1)肉食でお酒好きな人、家族が大腸がんになった人は、内視鏡検査を
(2)粘膜がんは内視鏡治療(ESD)が可能。ただし結腸がんは腹腔鏡下手術の選択も考慮に
(3)腹腔鏡下手術は技術格差があるので、とくに進行がんや直腸がんは経験豊富な施設で
(4)直腸がんは肛門温存にこだわりすぎず、再発のリスクがないことを第一に選択を
(5)進行・再発がんもあきらめず抗がん剤を。肝転移も切除できれば治癒の可能性あり