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 その自覚があるだけに、いまの仕事を始めたころには、周囲にたくさんいた型破りな人たちにコンプレックスを抱いては、自分がつまらない人間だと思われまいと、取るに足らないような出来事を盛りに盛って語ったり書いたりしていた。しかし、あとからそれを冷静になって読み返したところ、そんなウソで塗り固められた言葉など結局誰も面白がらないと気づき、その後は一切、自分を盛ることをやめたという(マツコ・デラックス『デラックスじゃない』双葉文庫)。

 マツコがブレイク後10年以上経ったいまなおテレビで多くのレギュラーを維持し、支持を集めているのも、本質的に常識人だからではないだろうか。単に“異形の人”というだけでは、おそらく人々は見慣れた時点で飽きてしまい、ここまで長続きはしなかったはずである。テレビだけでなく、世に出るのを後押ししてくれた中村うさぎとは2009年以来、『サンデー毎日』誌上で往復書簡に始まり、現在も人生相談の連載を続けている。
 

『週刊文春』2010年9月9日号では、「阿川佐和子のこの人に会いたい」に出演 ©文藝春秋

若い世代へのメッセージとは?

 そんなマツコは、いまから8年前、2014年に上梓した著書(文庫版は2016年刊)のあとがきで、SNSに夢中になる若い世代に向けてこんなメッセージを送っていた。

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《LINEはお遊びとしてやってていいけど、そればっかりに目を向けないで、LINEでは絶対に見せない自分の思いみたいなものを、1個大事に持っていてほしいんだよね。何か抱えているもの、作ってほしいんだよね。/それこそ日常の何気ないLINEの会話からだって、「ア、オレ、何かここは引っかかるな」という思いがあれば、その積み重ねが絶対何かにつながってくると思う。クソッと思いながらも、そのクソッという思いを積み重ねることによって、どうしても我慢することのできない感情みたいなものが1個生まれてくるから》(『デラックスじゃない』)

 そう書く本人もきっとそれまで、世の中と何とか折り合いをつけようとあがくなかで、何度となくクソッと思ってきたはずである。その積み重ねの結果、いまのマツコ・デラックスがあるに違いない。