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二次相続ラッシュで変わる2030年の“東京住宅地事情”

2022/11/01
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「単独高齢者世帯」で二次相続が多発

 実は、東京都内でも世田谷区や大田区、練馬区といった地価の高い住宅地が広がるエリアでは、高齢の単身者世帯が激増している。住みたい街ランキングの常連である吉祥寺がある東京都武蔵野市でも高齢単身者世帯が多く、推計によれば2030年にはその数は1万世帯を超え、全体の世帯数の14%にも及ぶようになるという。

 これから確実に起こることは、この単独高齢者世帯で多く二次相続が発生するということだ。税金の負担ができずに、実家を売りに出す人は着実に増加するだろう。税金は何とか払えたとしても、相続人である子供たちが住むアテがなければ、賃貸に出す、あるいは解体してアパートなどの賃貸資産にして活用する人たちも出てくるだろう。

 世田谷、大田、練馬だけでなく、都内で高級と呼ばれる住宅地の多くで同様な現象が起こり始めると、住宅地の様相はだいぶ変わるかもしれない。背景となる原因は都内どこでもほぼ同様であるからだ。一時期に大量の売り物件、賃貸物件が出ると、当然、売却価格、賃貸価格は下がる。下がれば若い人たちでも手が届く物件が出てくるだろう。街に若い人たちが出入りするようになれば、街の雰囲気はずいぶん変わったものとなるだろう。

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写真はイメージ ©iStock.com

2030年の東京はもっと住みやすくなる?

 それを高級住宅地の没落と考えるのは早計だ。世田谷ブランドや大田ブランドに憧れて、若い人たちが集まれば、街には新たな活気が出てくるかもしれない。これまではほとんど存在しなかった賃貸戸建てが世の中に多数供給されれば、ファミリーが比較的安価に世田谷区内の賃貸戸建て住宅に住めるようになるだろう。そうなれば何も一生かけて返済するようなローンを組んでマンションを買おうとする人も減るかもしれない。

 戦前までは都内でもファミリーが暮らせるような賃貸戸建ては多数あった。これからのミレニアル世代、ましてやZ世代にとって、家を買うという価値観よりも家はシェアするのがあたりまえの価値観になるだろう。

 あとほんの10年くらいの間で、住宅に対する価値観は、二次相続問題を通じて全く異なるものになっていくだろう。東京はもっと住みやすくなる、これが2030年の東京の姿だ。

二次相続ラッシュで変わる2030年の“東京住宅地事情”

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