まるで孫を紹介するように星野監督がデレデレに…
まだ携帯が普及していない時代でしたが、食事中、お店宛てに星野さんにはひっきりなしに電話がかかってきました。相手は誰なのか定かではないのですが、どうやら私と立浪のことを話しているようでした。その時の様子と言ったら「今、うちの選手を連れてきて……」などと、まるで孫を紹介するようにデレデレだったのです。
グラウンドでのあの鬼はどこに行ったんだ、別人じゃないかと、私は立浪とともに困惑するばかりでした。お肉の味も忘れるほど衝撃を受けたのです。
球宴でも徹底的な走り込みと打ち込み
翌日、球場に行くと、またいつもの星野さんに戻っていました。お祭りムードの試合前練習でも、シーズン中と同じように立浪とともに徹底的な走り込み、打ち込みを課されました。周りにいた他チームの選手が気の毒がるほどに……。
「お前らはまだそんなレベルじゃないだろう」
と我々を叱咤する星野さんに、前夜のデレデレした表情が重なりました。
「鬼か仏か、どっちがホントの星野さんなんだろう?」
すると、それを見透かしたように星野さんは「昨日と今日、どっちがいい?」といたずらっぽく笑っておられたのです。この人はユニホームを着ると人が変わるんだ――。そう思うに至った最初の出来事でした。
このオールスターの時もそうだったのですが、星野さんからは、オフに突然電話がかかってきて呼び出されることが多々、ありました。名古屋市内のご自宅にお招きくださったことも一度や二度ではありません。奥様には「タケシ君がいると、パパは機嫌がいいのよ。パパの機嫌が良くなるから12月は下宿してね」とありがたいお言葉を頂いたこともありました。
ご家族によると、シーズン中、負けたにもかかわらず星野さんの機嫌がいい日は決まって私を殴って帰ってきていたということでした。娘さんには「毎日、叩かれてきてね!」とこちらからは、あまりありがたくない言葉を頂きました。
しかし、まあ特に駆け出しの頃は毎日のように殴られていましたから、少なからず星野家の皆様の平穏には貢献していたのかな、と。
次回はそんな鬼の星野さんを中心に書いていこうと思います。
(#2へつづく。近日公開)