皆さん、明けましておめでとうございます。中村武志です。

 年明け早々ですが、今回も星野さんの鉄拳にまつわるお話です。厳しくも愛があった、その指導には“神通力”も宿っていたことを、ある大投手の例でご紹介しようと思います。

中村武志氏 ©文藝春秋

マサさんは視力の悪さが裏目…

 中日で私の1学年先輩に当たる山本昌さんは現役時代に通算219勝、球史で一時代を築いたレジェンドです。私と近い時期に1軍で活躍し始め、私より年長ですが、戦友と言える存在でした。

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 選手というのは誰もが好成績を残し出すと、天狗になり、がむしゃらさがなくなり、かっこつけたピッチングやプレーをしたがるようになるものです。マサさんもちょうどそんな頃に差しかかっていた、東京ドームでの巨人戦での出来事です。

 星野さんは特に、敵地での巨人相手の試合で燃える人でした。この試合も気合十分。しかし、マサさんはその気勢をそぐように序盤に大量失点を喫してしまったのです。

現役時代の山本昌氏

初めて星野さんに殴られた瞬間

 確か二回を投げ終わった後だったと思います。マサさんはベンチ裏に星野さんに呼ばれたのです。バッテリーを組んでいた私も乱調の責任を感じ、マサさんに付き添いました。

 星野さんは特別視している試合での序盤からのふがいない出来に、マサさんにおかんむりでした。最初は言葉だけでの叱責だったのですが、お説教が進むにつれ、なぜかマサさんが星野さんを睨みつけるような表情を浮かべました。

 実はマサさん、視力が悪かったのです。星野さんの言葉を一言一句、聞き漏らすまいと目をそらさず、しっかり見据えようとするあまりに目を細め、結果的に目つきが悪くなってしまっていたのです。

 このマサさんの表情に、星野さんは一段とヒートアップしたようでした。基本的にピッチャーは殴らないようにしていましたが、平手で一発。これがマサさんにとって初めて星野さんに殴られた瞬間でした。