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星野さんの鉄拳は飛躍の契機

 プロの世界では選手同士の力が拮抗していて、結果は紙一重の部分が大きいんです。ピッチャーはかっこよく、スマートに打ち取ろうなどとすると、得てして落とし穴が潜んでいるものなんです。あの時、ベンチ裏で星野さんはマサさんにもう一度、原点に返るように求めたのではないかと思っています。

 マサさんはプロ入り後、しばらく鳴かず飛ばずで、半ばチームの戦力構想から外れる形でアメリカ留学に送り出されました。そこで代名詞となる「スクリューボール」をマスターしたことで、クビ寸前のところからローテーションの一角を背負うまでに這い上がっています。どん底だった、あの頃のように遮二無二にバッターに向かって行く姿勢を忘れるなという星野さんの教えだったのではないでしょうか。

山本昌氏 ©文藝春秋

逆に殴られなくなると不安になる

 不思議なことに、星野さんが殴った選手はことごとく好成績を残すんですよね(もちろん星野さんが殴った選手は必ず、起用するというポリシーを持っていたことがあったのですが)。早いうちにそのことに気付いた私は、殴られなくなると不安になるほどでした。逆に殴られているうちは期待されていると解釈でき、使ってもらえるんだと安心感を覚えたものでした。

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星野仙一氏 ©文藝春秋

 一方で私はマサさんとは常々、こう話していました。

「俺たちが殴られた後に、こうやって結果出しちゃうから、星野さんは自分の指導が正しいと思っちゃうんだよな」

 と。いずれにしても星野さんの鉄拳指導を飛躍のきっかけにした選手は少なくなかったのです。もちろん、今の時代に許されることではないのでしょうが……。

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