2018年、骨髄異形成症候群と診断され、壮絶な闘病生活を送ってきた小説家の花村萬月さんは、自身をモデルにした私小説『ハイドロサルファイト・コンク』を今年の春に上梓した。血液のがんと診断されるのはどのようなことなのか。治療を続けると患者の身体と心はどう変化していくのか。自分の身の上に起こった困難さえも、「作家の目」という自意識を離れた第三者の視点から徹底的に見つめ、書き抜いた。

体重は50キロ台、顔は副作用で「ムーンフェイス」に

 たとえば、ステロイド剤の大量投与による副作用で顔がパンパンに膨らんだ時のことを、作品中ではこう記している。

《皮膚は新旧がせめぎあって褐色と白色のまだら、そこに膨満して顎さえ消失した巨大かつ尋常でない丸顔、ただし体重自体は三十キロほども痩せてしまっていて五十キロ台、痩せているくせに顔だけが脂肪太りの異様に大きな大顔面男と化してしまったのだ。》(P230)

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壮絶な闘病体験を楽しそうに話す Ⓒ文藝春秋 撮影・石川啓次

「いわゆるムーンフェイスというやつです。ちょうどその頃に新聞のインタビューを受けたんだけど、カメラマンの人も苦労したでしょうね。いろんな角度から撮って、満月顔が目立たないものを選んでくれたのが、掲載紙面を通じて伝わってきました。その後減薬したら少しずつ治まっていったんだけど、“萬月が満月”なんて、シャレにもならんでしょう(笑)」

膀胱炎、前立腺炎、尿道炎を併発した「シモの三重苦」

 GVHD(移植片対宿主病)による間質性肺炎を克服し、自宅に戻ってからもステロイド剤の大量投与は続いた。

「その副作用で骨が脆くなったことで、今度は脊椎を4カ所も圧迫骨折しちゃって。寝返りも打てず、ベッドから起き上がろうとするだけで思わず叫ぶほどの凄まじい痛みが腰に走る。レントゲンを撮って4カ所折れていると告げられた時、『俺、よく生きてるな』って思ったよ。本当に、自分がかわいそうになった」

自身の体の変化を客観的に観察してきた Ⓒ文藝春秋 撮影・石川啓次

 まさに“苦痛のデパート”ともいえる花村さんの闘病。そのデパートでも最上階に君臨したというのが、膀胱炎、前立腺炎、尿道炎を併発した「シモの三重苦」だ。