命の期限が刻一刻と迫ってきているという感覚
苦しみに耐えかねてあちら側の世界に行く人と、ギリギリのところでこちら側の世界にとどまる人。その境界線になっているものは何なのか――。そう問いかけると、花村さんは、10代の頃、素行の悪さがたたって入所させられた東京のキリスト教系の福祉施設での体験を口にした。
「そこで、『自分の命なのだから死ぬのも自分の権利だ、というのは愚かな行為だ』というカトリックの教えを植え付けられたのが大きいのかもしれません。神父が性的暴行をするなど、とんでもない施設だったから、あそこにはロクな思い出がないけれど、そこで過ごした日々があったからこそ、今こうして生きているんでしょうね」
骨髄移植を受けなければ5年生存率は10%以下。移植を受けても60%は死ぬ。そう目の前に突き付けられたあの日から、あと半年ほどで5年を迎える。苦しい日々を生き抜いたという実感を得たと同時に、今は命の期限が刻一刻と迫ってきているという感覚にも襲われるそうだ。
移植の後の現実を知っておくだけで、心構えは変わってくるはず
「たしかに俺はまだ生きている。ただ、この後、二次がんになる可能性も捨てきれない。全身のどこにがんが発生してもおかしくない状態だと思っています。実は、ここ最近、吐き気に悩まされているんだよ。食事中に突然やってくるものだから、トイレまで間に合わなくて。食卓の椅子に緊急用のビニール袋をかけているんです。今も定期的に通院していて血液の数値は良好なんだけど、やっぱりどこかおかしくなってきているのかと思わざるを得ないんだよね」
もちろん、同じ病気であっても辿る経過は人それぞれであり、誰もが花村さんと同様の症状が起きるとは限らない。骨髄移植に関しても、移植後の合併症がほとんどなく、早期に社会生活に復帰し、これまで通りの生活を送っている人もいる。
「ただ、医師は目の前の病気を治すことだけに注力するから、『治療が原因で後でつらい目にあうかもしれない』とは、言わないですよね。それがいいか悪いかということではなく、移植の後にこのような現実が待っているかもしれないと知っておくだけで、心構えは変わってくるはず。身体だけでなく精神までもが崩壊していくのは、本当につらいことですから」
(次回に続く)