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 しかし、ツキディデスの解釈をそのまま現代に適用するのは無理があるでしょう。戦争が起きたのは、中国と米国の間ではなくロシアと米国の間だったわけで、新興国の急速な擡頭によって戦争が始まったというのは、この戦争には妥当しません。冷戦期も含めた長いスパンで見れば、米露という、ともに凋落に向かう2つの勢力の間で戦争が起きているからです。

 ちなみに中国に関して言えば、これまで人口学者として何度も繰り返してきたように、中長期的に見て、出生率の異常な低さ(2020年時点で女性1人当たり1.3人)からして、世界にとって脅威になることはあり得ません。出生率1.3人の国とはそもそも戦う必要がありません。将来の人口減少と国力衰退は火を見るより明らかで、単に待てばいい。待っていれば、老人の重みで自ずと脅威ではなくなるでしょう。

戦争の当事国はどこも「弱小国」

 他の先進国も擡頭の局面よりも衰退の局面にあります。ドイツでは、政治システムが機能不全に陥っていて、庶民層の不満が蓄積しています。イギリスも、ブレグジットにもかかわらず、欧州のなかで経済が一番うまくいっていません。少子化対策にも移民受け入れにも本格的に取り組んでいない日本が、対外膨張的な政策を展開することはあり得ないでしょう。私の目には、日本はそもそも国力の維持すら諦めているように見えます。

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 つまり、どの国もうまくいっていない。今次の戦争の当事国はどこも「弱小国」で、どこかに弱みを抱えている国同士がやり合っているのです。ここに第一次世界大戦や第二次世界大戦との大きな違いがあります。このことは、人口動態を見れば、一目瞭然です。

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