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「米国社会について真実を言っていたのはトランプのほうだった」エマニュエル・トッド見抜いた「トランプ支持者の合理性」

『我々はどこから来て、今どこにいるのか?』 #2

source : 文春新書

genre : ニュース, 社会, 政治, 国際

「ふつうの有権者の視点から見て、米国社会について真実を言っていたのはトランプのほうだったのだ」――2016年のアメリカ合衆国大統領選挙で、なぜアメリカ人の多くがトランプを支持したのか?

 知の巨人エマニュエル・トッドが「トランプ支持者の合理性」について解説。新刊『我々はどこから来て、今どこにいるのか? 下 民主主義の野蛮な起源』より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)

なぜアメリカ人たちはトランプに投票したのか? そこには合理性があった(画像:AFP=時事通信)

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トランプへの投票の合理性

 グローバリゼーションは、そもそも米国に先導され、管理され、当然米国に利益をもたらしていると思われていたのだが、その発展の果てに、ほかでもない米国の住民たちのただ中にまで、過剰な経済的不平等と社会的不安定を発生させた。かくして、バーニー・サンダースやドナルド・トランプの保護主義を選好する方向への逆転が起こるための必要かつ充分な条件が満たされたのだった。

 成功したトランプの擡頭のみならず、阻止されたバーニー・サンダースのそれをもよく理解するために、われわれはまず、アメリカが国外に対して相対的に閉鎖的だった1930年代初頭から、貿易と移民に最大限に門戸を開いている昨今の状況まで、どのような歴史的プロセスを辿ってきたのかを瞥見しておかなければならない。

 南北戦争の終結から1929年の危機まで、米国の経済的離陸は、高い関税障壁に護られた中で実現したのだった。1930年代初頭、課税輸入品の課税率は平均50%だった。1934年になって初めて、フランクリン・D・ルーズベルト大統領の下で、貿易の門戸が開かれ始めた。

 当時の関税率は、課税品も非課税品も一緒にして平均すると18.4%であった。それが2007年、ちょうど金融恐慌〔日本では「リーマンショック」と呼ぶことの多い国際金融危機〕にさしかかる頃には、1.3%という低水準にまで下がっていた。

エマニュエル・トッド氏 ©文藝春秋

 米国は、1970年代の初めにはすでに構造的な貿易赤字を抱えるようになり、以来今日まで、その状態から脱け出たことがない。つまり、当時からずっと、米国は全世界の主要で中心的な消費市場として、ケインズ経済学でいう世界総需要を調整する機能を担ってきたのである。しかし、早くも1970年代の終わり頃には、国内自動車産業が凋落するなど、産業危機が到来していた。ところが、まさに同じ時期に、新自由主義の政策が加速的に実施された。

 レーガンが1980年に大統領に選出され、さらに1984年の大統領選では民主党候補ウォルター・モンデールの挑戦を歴史的な大差で退け、悠々と再選された。この折、モンデールは選挙キャンペーンで保護貿易を唱えていた。当時の民主党は、まだ昔どおり、白人も黒人もひっくるめた労働者階層の代表として振る舞っていたのである。勝ったレーガンが打ち出していたのは、黒人を厚遇し過ぎるというイメージの定着した福祉国家に対して宣戦布告し、福祉政策に敵対する反連邦税的アイデアをうまく混ぜ合わせた政策だった。

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