2000年~2016年に起こった推移をよく理解するには、次の事実をつねに意識していることが重要だ。死亡率上昇のような種類の劇的変化が白人米国人の最低学歴層において特に目立つとしても、経済の推移は、高等教育修了者たちにとっても、もはや本当には恵まれたものでなかった。実際、2000年以来、グラフ14─3が示すように、彼らの世帯の平均所得は年々横ばいだったのである。
「社会的転落から身を守る術」と化した高等教育
この頃から高等教育は、社会的上昇への道であるよりも、社会的転落から身を護るものとなっていた。そして実際、それこそが、学生生活を長く続けようとする志向が近年復活してきていることの原因なのだ。
背景には、知的な解放や自己実現への意欲よりも、むしろ身の安全を追求する心理が垣間見える。長期就学を支える財政手段を教育ローンに頼るケースがますます増える以上、累積する負債が将来の所得を減じる役割を果たすにちがいなく、経済的に恵まれない家庭出身の高等教育修了者たちは、悪くすれば何らかの形の経済的隷属に追い込まれかねない。こうなるとどうしても、昔の年季奉公人(indentured servants)の身分に思い到らざるを得ない。彼らは、米国がまだ植民地だった時代に、欧州から大西洋の向こうへ渡るための渡航費用を、何年もの「奉公契約」を結ぶことで捻出したのだった……。
経済学者たちの不思議な魔法の世界から外へ出てくると、ドナルド・トランプの大統領選勝利という現象を理解することができる。ヒラリー・クリントンと彼の間で交わされた数々の侮辱と嘘をもってしても、次の事実を覆い隠すことはできない。ふつうの有権者の視点から見て、米国社会について真実を言っていたのはトランプのほうだったのだ。
実際彼は、『THE TRUMP──傷ついたアメリカ、最強の切り札』の中で、米国社会が苦しんでいる姿を描いていた。その時、他方の民主党陣営は、アメリカとその「諸価値」──寛容性、開放性──の永遠の卓越を讃えていたのである。
トランプへの投票の社会学的・人口学的構造はこの診断を裏書きし、グローバリズムというイデオロギーから離脱する時点での米国のメンタリティの様態を、まさにX線で撮影したかのようにまざまざと映し出してくれる。
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