1995年に浮上したこのパイプライン建設は、ロシアのガスプロム社を中心に進められた。ウクライナを経由せずに、ロシアから直接ドイツへと天然ガスを送り込むルートとして、2005年、ドイツのシュレーダー首相の政権下、プーチン大統領との間で正式に協定が結ばれた。
このノルドストリーム1が2011年に開通すると、ドイツはさらにロシアへの天然ガス依存を深めることになる。西側諸国から批判を受ける中、メルケル政権下で、総工費95億ユーロ(約1.5兆円)をつぎ込んだノルドストリーム2に合意し、2021年末に完成までこぎつけた。
それが、ウクライナ侵攻に前後する2月、ドイツはその承認を取り消すことになったのだ。
ここに存在していること自体が「タブー」のような光景だった
これほどまで、ロシアとドイツ、そして欧州をめぐるエネルギー地政学を体現する場所なだけに、取材班は、ここを訪れれば、2022年という「今」を象徴する「何か」に出会えるのではないか、とベルリンから車を走らせたのだった。
だが、そこにあったのは、冒頭の「静寂」だけだった。
取材当時、まだかろうじて天然ガスを供給していたノルドストリーム1には数台の車が通り、この施設が一応生きていることをうかがわせていた。すぐ隣にあるヨットハーバーに集まる人々は、まるでここがウクライナ戦争をめぐる要衝であることも知らぬかのように、静かに余暇の時間を過ごしていた。
しかしノルドストリーム2は、まるで時間が止まったかのようだった。
ノルドストリーム1から港の対岸にある「2」は、そもそも、なぜかグーグルマップにさえ引っかからず、実際にたどり着けたのかさえも、確証が持てないほどだった。聞こえるのは自分たちの足音だけ。完成したばかりの新品感漂う巨大な敷地の周りをぐるりとめぐると、「Nord Stream 2」と書かれた看板に出くわした。
ようやくここで敷地内に1人だけ人がいることが分かったが、すぐにブラインドが閉められ、その数分後、パトカーのような車両に乗った警備員2人が我々の下に駆け寄ってきた。
取材目的を伝えようとしたものの、英語は通じず(ドイツでは珍しいが、ルブミンの村ではほとんどそうだった)、彼らは去っていった。その5分後再び、その車両は取材班の前で止まり、我々の車のナンバーだけを聞き出そうとし、また去っていった。 向こう岸には解体中の原発。まるで、ここに存在していること自体が「タブー」のような、ノルドストリームの光景だった。
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※筆者ら取材班が、ドイツを含む世界の5カ国を周り、気候変動やエネルギー、食糧問題まで、地球規模の課題に規格外のイノベーションで取り組む人々(イカれたやつら)を訪ねて歩く「地球極限GREEENイノベーションジャーニー」は、現在NewsPicksで配信中(初回無料)。