ただただ、静寂が漂っていた。

 ドイツの北東にルブミンという村がある。人口わずか2000人。首都ベルリンから車でひたすら平たい農地を走り抜けること3時間、目立った観光資源もないこの村に、今年、世界の視線が注がれ続けている。

 ノルドストリーム。

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 国際情勢やエネルギーに興味がない人でも、この名前を一度は聞いたことがあるのではないか。ロシアからドイツに天然ガスを送り込む、2つの巨大パイプラインの名称である。2011年に稼働したノルドストリーム1と、2021年に完成したノルドストリーム2がある。

「地球極限GREENイノベーションジャーニー」より ⓒNewsPicks

 2月にロシアによるウクライナ侵攻が始まって以降、このノルドストリームは、世界のエネルギー地政学を象徴する場所となった。ロシアの力の源泉である天然ガスと、それに依存するドイツ。西側諸国がロシアへの経済制裁を強める中でも、特にドイツのロシア依存が高いことから、一番ダメージを与えられる天然ガスの禁輸までは踏み込むことはできなかった。

 その一方で、プーチンは、ジリジリとドイツに打撃を食らわせていった。6月には、ノルドストリーム1経由のガス供給を一気に75%減らし、7月には「保守・点検」の名目で10日間供給を止め、8月からは一切供給を再開していない。

 9月には、パイプライン2本で合計4カ所の爆発が確認され、西側諸国はロシアによる「破壊工作」の可能性を指摘している。

 そして、ドイツでは今冬のガスの配給という事態が現実味を帯びている。

エネルギー危機直前のドイツへ ⒸNewsPicks

 そんな2022年の地政学の要衝を今夏、筆者ら取材班は訪れた。  

ロシアへの天然ガス依存を象徴する場所

 ルブミンは近代史を通して、エネルギー地政学に翻弄されてきた。

 第二次世界大戦後の1949年、ソビエト連邦の占領により、東ドイツ(ドイツ民主共和国)の一部になると、バルト海へのアクセスと密度の低さから、原子力発電所が集まる村となった。

 1960年代から、4基の原発の建設が始まると、1970年代に稼働を開始し、一時は8基の原発が計画されていた。村の財政を支える一大産業となっていたが、1990年のドイツ再統一で、安全性の観点から東ドイツのすべての原発は閉鎖されることになる。

ドイツは原発全廃中 ⒸNewsPicks

 ルブミンのグライフスヴァルト原発の廃炉・解体作業は実はまだ完了していないのだが、ルブミンは、21世紀に入り、またロシアとの関係を軸にした新たなエネルギー産業を招き入れることになる。

 それがノルドストリームだった。