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「何これ! どうしてこんなにあるの!?」冷蔵庫を開けたら40本のバナナが…認知症の母が起こした“バナナ事件”の全貌

『医者の僕が認知症の母と過ごす23年間のこと』より #2

2022/11/12

 ドラマ『ドクターX ~外科医・大門未知子~』 (テレビ朝日系)の医療監修や、各種メディア出演、講演などで幅広く活躍している現役医師で医療ジャーナリストの森田豊氏。彼の母親は23年前にアルツハイマー型認知症を発症し、現在は施設で暮らしているという。

 ここでは、森田氏の母親がどのように認知症を発症し、家族がどう向き合ってきたのかを綴った『医者の僕が認知症の母と過ごす23年間のこと』(自由国民社)より一部を抜粋。認知症の母親と暮らすなかで起きた“ある事件”を紹介する。(全2回の2回目/1回目から続く)

©iStock.com

◆◆◆

バナナ事件とボヤ騒ぎ

 外出を嫌うようになっていった母だったが、健康維持のための散歩は続けていた。

 家の近所を歩いたり、時には駅前の商店街まで足を伸ばし、買い物をして帰ってきたりすることもあった。

 物忘れや性格の変化が現れたといっても、急激に不健康になるわけではないし、1人で何もできなくなるわけではない。変化はとてもゆるやかで、日によってはまあまあシャキッとし、何の心配もいらないように見える日もある。

 ボーッと過ごすことが増えたとはいえ、身体的には特に問題もなく、1人で散歩に出かけて帰ってくるのだから、自由に行動させておいても構わないだろう。そう思って、外出や買い物は好きにさせていた。

 ところがある日、驚くべき出来事が起きた。母が散歩の途中でバナナを買いまくり、冷蔵庫に入れていたのだ。

 最初にこれに気づいたのは姉だった。姉は母の通院などのために、嫁ぎ先からちょくちょくうちを訪れていたのだが、この日も母から呼び出されてやって来て、昼ごはんを作ろうと冷蔵庫を開けた。そこでおよそ7、8房、合計40本近くものバナナが冷蔵庫内を占拠しているのを発見したのだ。

「何これ! どうしてこんなにバナナがあるの!?」

 びっくりした姉は、大声で母に尋ねた。しかし、母の答えは要領を得ない。買って来たことも覚えていないようだったという。

 どうやら母は、散歩のたびにスーパーでバナナを買っていたらしい。しかも、1日に2度3度と、繰り返し買ってしまうこともあったらしい。姉は毎日冷蔵庫を開けて見ているわけではないので、すぐには気づかなかった。たまたま大量にストックされたところを、目にしてしまったというわけだ。

 ちなみに、バナナについては僕も妻も、姉に言われるまでまったく気づかなかった。

 2世帯同居とはいえ、母も妻も互いの家の冷蔵庫を勝手に開けるようなことはしない。

 余計な干渉をせず、基本的な暮らしはそれぞれ独立していたこともあって、僕らも冷蔵庫のバナナには全然気づかなかったのだ。