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母はなぜバナナを買いまくったのか?

 大量のバナナを目にした時は、さすがに僕も驚いた。不安になるより、大笑いしてしまった。というか、笑うしかなかった、と言った方が正しいかもしれない。

 それにしても、なぜバナナなのか? 僕は聞くともなくつぶやいた。

「母さん、どうしてあんなにバナナを買いまくったのかな?」

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「さあ……テレビか何かで、健康にいいとでも言っていたのを見たんじゃない?」

 姉は首をひねっている。

「健康名人だもんな。けど、母さんってそんなにバナナ好きだったっけ?」

「そうでもないと思うけど、お母さん、凝り性なところがあるからね」

 まあバナナを食べまくっても、そんなに心配はいらない。食べ過ぎればお腹を下す可能性はあるが、それが重篤な病気を引き起こすことはまずない。そもそも母はバナナを買いまくっていただけで、食べまくっていたわけではない。

 だから今はあれこれ取り沙汰せず、今後似たようなことが起きた時に考えればいい。

 バナナ事件によって、僕らは母の物忘れが進んでいることを実感せざるを得なかったが、危険もないし誰かに迷惑をかけるでもなし、放っておいても構わないと判断したのである。

今度は家の中でボヤ騒ぎが発生

 ところが、今度は放っておいてはいけない事件が起きてしまった。

 鍋を焦がし、ちょっとしたボヤ騒ぎを起こしたのである。

 これも最初に気づいたのは姉だった。

 いつものように母の家に入ると、焦げ臭い匂いがして、キッチンが煙でいっぱいになっている。驚いた姉は慌ててコンロの火を消した。どうやら母は、鍋に入った残り物のカレーを温め直そうとして、火を消すのを忘れてしまったらしい。

 幸いボヤになる前に消し止められ、消防署に通報するほどの騒ぎには至らなかったが、これに関してはさすがに皆、強い危機感を持った。もう火を使わせるのはまずい、ガス栓を止めようということになり、湯沸しやちょっとした調理には、電子レンジか電気コンロを使わせるということになった。

 実を言うと、火の消し忘れはこれが初めてではなかった。以前にも2、3度、お湯を沸かそうとしてガスの火を消し忘れることがあった。ただ、煙でモウモウとなるほどではなく、やかんの底を焦がす程度だったので、ガス栓を止めることまでは考えなかったのである。

 しかし、今思えばこの判断はうかつだった。たまたまボヤ寸前で止められたからよかったものの、1つ間違えれば大きな火災に発展し、隣近所にとてつもない迷惑をかけることになっていたかもしれない。

 僕はこの頃から、何か手を打たないとまずいことになると、真剣に考え始めていた。

 忙しさを言い訳に後回しにしていたものが、どんどん膨らみ押し寄せて来ていることを感じないわけにはいかなかった。