文春オンライン
《がん免疫療法の落とし穴》藁にもすがる患者を誤解させ、高額治療に誘導する「国立大学病院」が失った“医の倫理”「カフェイン療法で死亡事故の過去も」

《がん免疫療法の落とし穴》藁にもすがる患者を誤解させ、高額治療に誘導する「国立大学病院」が失った“医の倫理”「カフェイン療法で死亡事故の過去も」

2022/11/11
note

抗がん剤とカフェインを併用する治療で起こった重大な医療事故

「カフェインに、抗がん剤の作用を増強する可能性がある」と考えた金沢大の整形外科グループは、1989年から独自に「抗がん剤とカフェインを併用する治療(カフェイン療法)」を始めた。ただし、有効性と安全性が確立されていない治療のため、2008年に金沢大病院の倫理審査委員会の承認を受けた臨床試験のみ、という条件付きである。

 2年後、骨肉腫の少女(当時16歳)が、カフェイン療法を受けて、急性心不全で死亡する事故が起きる。当初、この事実は隠蔽されていたが、死亡した少女の遺族関係者から相談を受けた、金沢大の小川和宏准教授(医薬保健研究域)が、厚労省に公益通報を行って発覚したという。

「カフェイン療法で使用された、アドリアマイシンという抗がん剤は、心機能低下の患者には投与禁忌と添付文書に明記されています。記録を確認したところ、少女の心機能が急激に低下していたことが検査で判明していたのに、アドリアマイシンの投与を続けて死亡させたと分かりました。この重大な医療事故を隠して、その後も整形外科グループがカフェイン療法を続けていたので、更なる犠牲者を出さないために、厚労省に公益通報したのです」(*注2)

ADVERTISEMENT

金沢先進医学センター外観

カフェイン療法の中心人物が同センターを設立

 カフェイン療法を考案して進めていた中心人物が、金沢大病院の病院長で、整形外科教授の富田勝郎氏(肩書きはいずれも当時)。だが、このカフェイン療法は、国の臨床研究に関する倫理指針等に違反していたことが分かり、2013年12月に中止された。

「整形外科グループは、骨肉腫の5年生存率について『1980年頃は5%ほどだったのが、カフェイン療法で90%に向上した』、と学会に報告していました。しかし、これは偽装された治療成績だったことが判明して、厚労省の先進医療会議で問題視されたのです。骨肉腫は、従来の標準治療でも生存率は70~80%でしたので、あえて有効性や安全性が不明確なカフェイン療法を実施したのは、医療モラルに反します」(小川准教授)

 富田氏は2014年に金沢大を退任すると、同センターの理事長に就任して、現在もその職を務めている。この経緯について、以前のインタビューで本人はこう語っていた。

金沢先進医学センターの富田勝郎理事長(撮影:2017年) ©️岩澤倫彦事務所

「金沢先進医学センターの設立は、当時病院長だった私が保険適用外の免疫細胞療法をできるように、ウルトラCで考え出した。学長(当時)が、大学病院の敷地を提供するというので、厚労省に聞いたら、患者が選択して免疫療法を受けるのなら自由だと言っていた」(2017年の取材)

関連記事