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《がん免疫療法の落とし穴》藁にもすがる患者を誤解させ、高額治療に誘導する「国立大学病院」が失った“医の倫理”「カフェイン療法で死亡事故の過去も」

《がん免疫療法の落とし穴》藁にもすがる患者を誤解させ、高額治療に誘導する「国立大学病院」が失った“医の倫理”「カフェイン療法で死亡事故の過去も」

2022/11/11
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カフェイン療法と免疫細胞療法に共通する問題点

 今年3月、厚労省の検討会に対して、患者から同センターの免疫細胞療法を1年以内に中止するよう求める要望が提出された。すると、同センターは突然、ウェブサイトに次の短い一文を掲載したのである。

3月31日をもって「がん免疫細胞療法」の初診の受付を終了します

 初診の受付を終了する理由などは、一切付記されていない。これではあまりに無責任ではないか。月刊「文藝春秋」の取材として、筆者は同センターと金沢大の両方に取材を申し入れたが、拒否された。

「カフェイン療法と免疫細胞療法には共通の問題点がある」と小川准教授は指摘する。

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「免疫細胞療法の診療は、カフェイン療法の整形外科グループと、現在の学長が所属していた消化器内科グループの医師が行なっていました。本当に有効性が高ければ、たとえ厚労省の検討会で指摘されても、すぐ中止する必要はないはずです。いかにも有効性が高いように誤解させて、がん患者に治療するのは、カフェイン療法と同様に、エビデンスがある最善の治療法の選択を妨げるものです」

 有効性が明確になっていない段階の治療法は、患者にとってリスクが大きい「人体実験」に等しい。したがって原則無償で、厳密な臨床試験として行われるのが、これまで医学の常識だった。しかし、がん患者に対して、有効性が確立されていない治療を自由診療で行っている大学病院は複数存在する。それは、患者のための治療なのか、決断する前にセカンドオピニオンを受けるなど、慎重な判断が必要だ。

免疫細胞療法を再現する富田理事長(撮影:2017年) ©️岩澤倫彦事務所

「エビデンスがない治療を医師が勧めるのは詐欺的行為」

 全国がん患者団体連合会の天野慎介理事長は、がん自由診療の法規制を検討すべきと語る。

「命の危機が迫っている患者は、できる事は何でもやりたいという心理状態になり、自由診療の免疫細胞療法を選択する人もいます。ただし、それは有効性を期待しているからであって、エビデンスがない治療を医師が勧めるのは、詐欺的行為ではないでしょうか。がんの自由診療について、国は一定の規制や審査を検討すべきだと思います」

 金沢先進医学センターで、実際に行われていた免疫細胞療法と、この治療を受けた患者たちの顛末については、文藝春秋12月号に掲載されています。

*注1:遺伝子組み換え技術の「CAR-T療法」は、有効性が立証された唯一の免疫細胞療法。対象は、従来の治療法で効果を示さなかった血液がんの患者に限定。抗がん剤と併用し、重篤な副作用がある。大学病院などに入院して行われる特別な治療で、自由診療の免疫細胞療法とは大きく異なる。

*注2:小川准教授がカフェイン療法死亡事故について公益通報した際、対応した厚労省の官僚が金沢大に対して情報を漏洩していたことが後に判明した。この他、小川准教授は金沢大の不正経理などの内部告発を行なってきたが、それに伴い様々な脅迫や暴力行為、そして不利益な扱いを受けているという。金沢大とは10年以上も法廷闘争を続けているが、医師として国立大学教職員として、正義を貫くのが信念と語る。

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