A子さんが自殺した2016年8月16日が近づくと、メッセージの切迫感は急速に増していく。8月12日の勤務中に2人の間でトラブルがあったのだろう。勤務後の18時29分にX氏が「悪いけど明日から休んでいい。」「ちょっと相手にするのが疲れた。」と送信。そして「すみません 私ももう疲れました」とA子さんが応じると「態度が悪い」「使えない以前」といった文言をX氏は連投。
「自分の存在が嫌で嫌でたまらなくなりました」
「憎いしむかつく」といった文言のほか、自殺の前日にはA子さんが関係をもった男性スタッフの名前をひきあいに「僕は嫉妬心煽られると憎しみに変わる」と叱責。死の直前のA子さんの返信は以下のものだ。
「自分の存在が嫌で嫌でたまらなくなりました みんなにとっても私は必要ない存在だと思います。」(8月13日)
「あのあと、もう生きててもしょうがないと思って、首を吊るか薬を多量に飲むか考えて途中までやりかけましたが、そこまでできる勇気もなく断念しました」(8月14日)
「私はダメな人間だと先生にずっと言われ続けてきてそう思っていましたが、心のどこかでは違うと思っていたのかもしれないです。言われたことは相当堪えてたんですが…」
「自分は疲れていると逃避傾向があるのもわかってます。それでも、なんとか逃げないようにしないといけないと思って、今日も昼から●●(クリニックの名前)に行こうと思ってました」(8月15日)
それに対してX氏は「明日からまた仕切り直しできそうですか?」(8月15日の午後9時過ぎ)「今日無理なら休んでください。」(8月16日の午前6時過ぎ)とメッセージを送っているが、A子さんはそれに返事をすることなく帰らぬ人となった。
10月26日に鹿児島地裁で行われた民事裁判の口頭弁論で、X氏は「これらのLINEについては、ほぼやり取りした記憶がない」と言ってのけた。A子さんとの関係についてはこう供述している。
「(A子さんは)非常に熱心で、他の職員との差がつき彼女への信頼が増しました。非常に能力が高く難しい患者さんを優先的に見てもらっていましたが、特別扱いはしていません。(職場に)いち早く来るのがA子さんで、最後までいてくれる。話をする機会も増えて、時間的にも距離的にも近づいていきました。(中略)叱責はしたし指導もしたが、彼女から返ってくる言葉は『できない自分がくやしい』と。涙を流す、真面目な子だなと思っていました」
50代の太った外見だが口調は穏やかで流暢で、精神科医として患者の信頼を集めていたことも納得できる。しかし自身の弁護人から遺族側の主張を引き合いに「あなたが(A子さんを)死に追いやったのではないか」と尋ねられると、X氏は「私はそう思ったことはまったくない」と自身の責任を完全否定している。
「彼女が亡くなってからずっと考えている。(強迫性障害と診断しているが)強制入院、強制治療のハードルは高い。自殺を予見できなかった。(自殺の)3日前、『手首を切ろうとしたけど切る勇気がでませんでした』と言っていたが、私たちは手首をきることは疲れている兆候としか捉えない。『お前に自殺なんかできるわけないだろう』と言ったら『私は自分でもそんなことは分かっている』と言うので『とにかく休め』と言った。抑うつと自殺には大きな落差があり、(A子さんの)自殺そのものの予見はまったくできなかった」(X氏)
果たして自殺の予見は本当にできなかったのだろうか。パワハラやセクハラの有無について裁判所はどのような判断をするのだろうか。
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