張氏のスピーチは5分余り続き、地元の観衆も内心飽き飽きしていたのだろう。スクリーンに映っているのを意識し、バンナがスピーチ終盤から延々と胸筋をピクピクさせるたび、会場からはクスクス笑いが起こる。会場の雰囲気がそうして和んだところで、マイクは猪木さんの手に渡る。
開口一番、猪木の絶叫。だが…
猪木さんは開口一番、「元気ですか~ッ!」といつものように絶叫。だが通訳が朝鮮語に訳しても、会場からの呼応はなく、パラパラ拍手が起こるだけだ。
間近で見ていた前出の男性によれば「いつものユーモアやリラックスした様子は皆無。猪木さんも絶叫こそしたもののまだ緊張しているようで、スクリーンには、猪木さんが何度も推こうして修正した原稿がたびたび映っていた」という。
猪木さんからは「偉大なる指導者、金正恩元帥の深いご理解とご指導のもとに大成功に終わることができました」「スポーツ競技を通じて世界平和の実現、そして日本と共和国(北朝鮮)が近くて遠い国ではなく、近くて近い国になりますように、1日も早く交流を深めて、両国、世界の平和のために尽くしてまいりたいと思います」といった言葉も続く。
そして最後、猪木さんは「1995年のときにもやらしてもらった私のパフォーマンスですが、元気になりますんで。日本では必ずみんなにご唱和いただきますが、もしよろしかったら……。私が『ハナ(1)、トゥル(2)、セ(3)、ダァー』と、いいでしょうか?」と会場に呼び掛ける。男性が振り返る。
「猪木さんが話している間も、バンナは会場を盛り上げようと相変わらず胸筋を動かしたり、大げさなクシャミもして、観客を笑わせたりもしていた。猪木さんの呼び掛けは、右から左に流れていくような状態。結局、ダァーっと手を挙げたほとんどが日本人ファンでしたね(笑)」
ただ、北朝鮮事情に詳しいこの男性は、猪木さんが仕掛けたプロレス大会の意義深さを痛感したという。