表に出にくい子どもの性被害
キッズラインが認めるこのケースは恵子さんの娘のケースである可能性が高い。キッズライン側は筆者の質問を受けて、2022年10月に再調査をしているのだが、「被害に遭ったことをお子様が思い出したかもしれないという連絡」は1ケースのみだったとしているからだ。
キッズラインは、「当ケースについては捜査機関にも連絡しつつ調査を進めた結果、被害を受けたという事実は認められませんでした」と筆者に説明している。ところが、恵子さんの説明は異なる。
「『調査を進めた結果、被害を受けたという事実が認められなかった』のではなく、家族が被害届を出さないという判断をしただけです。キッズラインは娘の訴えをなかったことにしたいのかな。そう思ってしまいます」
性被害――とりわけ子どもの被害は表に出づらい。
一般社団法人「Spring」のアンケート調査によると、性被害を認識するまでには、わいせつ行為を受けてから0~1年かかるという回答が最も多く、数十年かかるケースもあることから平均では6~7年という結果も報告されている。期間が空けば被害の証拠は風化し、事件化は困難になっていく。明るみになった性被害の奥底には、それ以上の被害が眠っている可能性もあるのだ。
スタートアップでマッチング事業といえど、子どもの命や心身に長期にわたって大きく影響する事業であることの責任はとてつもなく重い。だからこそ、未然に防ぐこと、そして起こった直後の対応が重要だ。
キッズラインは2人の逮捕者が出た事件を受けて報告書(2020年9月24日)を作成している。
2人目の逮捕者である荒井被告は、橋本被告が逮捕された後にもわいせつ行為を行っているが、報告書では、もし橋本被告の逮捕が明らかになった時点で利用者に対して警告を出していれば、それ以降の被害を防げた可能性はあったと認めている。
なぜそうしなかったかというと、当時事件についてのリリースを検討したが、顧問弁護士から警察に対する捜査妨害に当たる可能性が高いこと、被害児童・ペアレントのプライバシーを侵害する、加害者のプライバシー侵害や名誉棄損にもあたる可能性等を踏まえ、情報発信を控えたという。しかし同時に、捜査や人権保護に配慮したうえで情報発信ができた可能性を認めている。
報道で社名が明らかになってからもウェブサイト上での告知に留まっていたことについても、利用者に対するメールやアプリの通知で利用家庭やシッターに注意喚起できていれば、「警戒心が高まることが抑止効果となり、B(2人目)による事件を防止し得た可能性は否定できない」(報告書より)と述べている 。
一連の事件や不祥事への反省をもとに、キッズラインは安全な体制を築いたのだろうか。