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「実際に完成した映画を観ると、あのラストシーンがずっと気になり続けているんですよ」

 映画のラストシーンは、原作小説の構成を巧みに入れ替え、独特の後味を残す。

平野「脚本を読んだ段階では、小説とはちがう構成に違和感もありましたが、実際に完成した映画を観ると、あのラストシーンがずっと気になり続けているんですよ。それでなるほど、と。気になるということは、観る側にとってはずっと尾を引くというか、それによって他の場面についても、どういうことだったのかな、と考えさせるような効果がある。それは映画にとって非常によいことだと思うんです」

 平野氏の小説世界が石川監督によってどのような映画表現に生まれ変わったのか、観て確認してほしい。

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杉山秀樹=写真

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ひらの・けいいちろう 1975年愛知県生まれ。98年『日蝕』でデビューし、翌年、当時最年少で芥川賞を受賞。近年は「分人主義」を提唱し、小説にもそれが反映される。2019年には『マチネの終わりに』が映画化された。最新作は『本心』。

いしかわ・けい 1977年愛知県生まれ。ポーランドのウッチ映画大学で演出を学ぶ。2017年『愚行録』で長編デビューし、高い評価を得る。以降、『蜜蜂と遠雷』(19年)、『Arc アーク』(21年)と作品を発表する。

11.18公開『ある男』

INTRODUCTION:愛した夫は、名前もわからないまったくの別人だった——。読売文学賞を受賞した平野啓一郎の同名小説を、国内外で高い評価を受ける石川慶監督が映画化。「ある男」の正体を探る主人公の弁護士を妻夫木聡、彼に夫の身元調査を依頼する女性を安藤サクラ、そして謎に包まれた「ある男」を窪田正孝といずれも現代日本映画界の実力派俳優たちが演じている。本年度のヴェネツィア国際映画祭オリゾンティ・コンペティション部門に正式出品。

 

STORY:離婚を経て故郷へ戻った里枝(安藤サクラ)は、そこで出会った「大祐」(窪田正孝)と結婚し家庭を築く。あるとき不慮の事故で大祐が死亡、里枝は彼の兄・恭一(眞島秀和)と顔を合わせるが、遺影を見た恭一は故人は大祐ではないと断言する。里枝の依頼を受けた弁護士の城戸(妻夫木聡)は、大祐こと「X」の正体を探り始めるが、本物の大祐の恋人であった美涼(清野菜名)の協力を得て真実に迫っていくうち、城戸の心のなかに複雑な思いが芽生えていく。

 

STAFF & CAST:原作:平野啓一郎/監督・編集:石川慶/脚本:向井康介/音楽:CICADA/出演:妻夫木聡、安藤サクラ、窪田正孝/企画・配給:松竹/©2022「ある男」製作委員会