夜な夜なトイレに…船上生活でつらかったのは
初めのうちは絶望で全然眠れなかったのですが、徐々に操業に慣れ始めると、クタクタに疲れて爆睡するようになりました。
いくら悩みや愚痴を言ってもしょうがないと思って、必死に耐えていました。近海マグロ漁で本当によかったと思います。こんな状態が遠洋で1年とか続いていたら持ちません。
さらに地味につらかったのがエンジン音です。ゴゴゴゴゴ……というエンジン音が耳障りでたまりませんでした。
機関室というエンジンに関する部屋があって、そこには必ず操機長たちがいます。エンジンワッツ(ワッチ)という点検を行い、油をさしたり日誌をつけたりするのが主な仕事のようです。ここは物干しがあって、洗濯物を干す場所としても使っているのですが、うるさい上にものすごく暑くて嫌になります。独特の匂いも嫌でした。
それから、船酔いにはかなり悩まされました。
船なので当然揺れが酷いのですが、私は船酔いが1週間続きました。夜な夜な寝台からサロンへと階段を這って上り、投縄の人たちが仕事している中で2階のトイレに行って、ゲーゲー吐いていました。
一度、寝台の中で毛布の上に大量に嘔吐したことがあって、隣で寝ていたボースンが顔をしかめながら心配そうにしていました。
「吐いたのか? 大丈夫か?」
「大丈夫じゃないっす……」
私は顔面蒼白で答えるのもやっとでした。
地元の港の漁でタコ釣りというものがあって、大きな鉤にサンマをまるまる2匹くらいつけた仕掛けを使って、船で少し沖に出て釣ります。このタコ釣りに行くと毎回船酔いをします。まあ酷いものでしたね。それを思い出して、「これじゃ毎日タコ釣りだわ」と嘆いていました。
ろくに仕事ができない
いよいよ私もマグロ漁船の操業を手伝うことになりました。
ジリリリン! ジリリリン! と大きな音が船の中のスピーカーから一斉に響いてきます。これはスタンバイといって、揚げ縄スタートの合図です。真っ暗な夜のうちに投縄を行い、餌を入れた仕掛けを海に投げ入れるのですが、揚げ縄はそれを巻き揚げる仕事です。
海に浮かんでいて信号を出している大きなブイ(ラジオブイ)にアンカーを投げて引っ張り、ラインホーラーという装置にかけて縄を巻き揚げます。
この縄に仕掛けがついていて、それに魚がかかっていれば引き揚げて、解剖してカメ(貯蔵庫)に入れます。手が空いている人は仕掛けのブラン(枝縄)をきれいに巻いて、また夜にすぐ投縄ができるようにしまっておくという作業工程です。
また、ときどき縄が切れてしまうことがあるので、切れたら近くのラジオブイまで船を走らせて、ラジオブイの信号をもとに縄を探します。回収できたらブイにアンカーを引っ掛けて、縄をラインホーラーに巻いて操業再開するという流れです。縄が切れると回収が大変なので、縄の傷をチェックする仕事もあります。
私は初めてなので、カッパを着て長靴を履いてヘルメットを被ってからは、フラフラしながら仕事を見ていました。まずは魚を引っ張り上げろと言われたので思い切り縄を引いてみましたが、ろくに持ち上げられません。とてつもなく重いのです。