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 サメがよく釣れるのですが、1人では引っ張れません。なんせ力がないし、サメのほうもワニのように巨大で重いのです。

 そこで縄を腕に巻き付けて引っ張ろうとしたのですが、「馬鹿野郎! 海に引きずり込まれるぞ!」と怒鳴られました。そりゃそうだ。魚は力があるから、腕に巻きつけたら海に引きずり込まれて一巻の終わりです。綱引きのように引いてみても、最初の内は全然引けませんでした。

波で体が吹っ飛ばされることも…

 一番苦労したのは、スナップ外しです。船の上で一番多かった作業でもあります。ブランの上端はスナップという金具で固定されています。スナップは優れもので、前に押すように握ると簡単に外れますが、引っ張ろうが何しようが絶対に外れません。

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 縄を巻き揚げるとこのスナップがものすごいスピードで次々と上がってきます。これをラインホーラーを握るハンドル担当の人が巻き揚げ速度を調整していちいち止めて外す……なんてことはしません。全速力で巻き揚げていきます。

揚げ縄の様子

 慣れれば飛んできた野球のボールを打つような感覚で簡単に外せるのですが、初心者にとっては至難の業です。まず速すぎて見えないし、怖い。こんな感じで1カ月間まったく歯が立ちませんでした。

 でも、これができないとマグロ漁船の上では使い物になりません。1日のうちに12時間はほぼほぼスナップ外しとブラン手繰りが仕事ですから。

 近海マグロ漁船は遠洋マグロと違って、とにかくシケに見舞われます。

 私は最初のうちは、真っすぐ立つことすらできませんでした。波が来るたびフラフラ、フラフラ、そして転ぶ。そのたびに「何やってんだこの!」と船員さんに怒鳴られていました。

 たまに船のオモテにあるマストを越えて大波が来ると、ドドーンと突き上げるような衝撃が来て、波がザーッと上からも横からも入ってきます。そうするとブリッジ(操舵室)で舵を取っている船長か船頭がジリリリンと警報器を鳴らしてくれるので、船にしがみつきます。船長やボースンが「掴まれー!」といつも叫んでいました。

 波で体が吹っ飛ばされることもあるので、ヘルメットも必須です。このような大波で大西洋やらケープタウンでは7人が波でさらわれて消えたという話も聞きました。本当に命がけでしたね。