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「お前この野郎! デブ専って言ったのか⁉」「言ってません」


 それでも、そういうのもなんとかしてきた。「先輩は後輩の面倒を見てあげる」ことをずっと守ってきたということもあり、断り切れなかった。「この先輩怖ぇなあ」という人でも、いざとなれば自分のことを助けてくれると思ったら、若い衆は言うことを聞くようになる。昔はそういった先輩後輩の信頼関係があった。

 他にもヤクザ関係のトラブル処理はたくさんあった。巡業中に後輩が地回りのヤクザと喧嘩してしまい、話をつけないといけなくなってしまった。後輩を組事務所に連れて行って話をしに行ったこともある。

「お前! ウチの大事な若い子をシバきあげてどう思ってんだ!」と言われたが、その場では「いやいや、すみません」と謝ることしかできなかった。続いて「なんでそういうことをしたんだ!」と聞かれたので、私も「お前何で叩いたんだ?」と聞くと後輩の力士は「いや~あの、そいつがデブ専っておちょくってきたから」と言った。

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 すると、ヤクザの親分が「お前この野郎! デブ専って言ったのか⁉」と聞くも、ヤクザは「言ってません」と。そこから言った言ってないの話になり、その日の巡業の時間が迫る中で、話をしないといけない事態になった。

ヤクザの世界に惹かれてしまう者も

 話の流れでたまたま地回りの親分が「昔、お前の親父と麻雀やったことがある」と言ったので、これが実にラッキーであった。その場で後輩に2、3発ゲンコツ入れて「体格も違う一般の人を殴っちゃダメなんだよ」と叱り、ちゃんと2人で謝って、「これでもう手打ちにしてくれ」と許してもらった。

 ところがこれで話は終わらない。その相手ヤクザから、「今日、夜飯でも付き合うてくれるか?」と提案がきた。こっちとしては付き合いたくないけど、先ほどの一件もあるので付き合わないわけにはいかない。仕方なく、裏の人間とご飯を食べに行くことになった。

 悪い悪くないは別として、そこでヤクザに飲み食いをご馳走になるわけである。中にはそこでお金を渡されてヤクザの世界に惹かれてしまう者もいる。今は表立ってヤクザと力士が飲み歩くようなことは減ったが、関係を続けている者も少なくないだろう。