荒くれ者の相撲取り「殴り合いの喧嘩は日常」
ある日のこと、神田川沿いを歩いていたときに、正面から向かってきたのは2人のチンピラだった。「どけこら、相撲取りがでっかい体しやがって」と言ってチンピラが絡んできたのである。
すると一緒に歩いていた先輩力士が「なん言よっとか! きさま!」と2人のベルトを持って、5メートル下の川底に落とそうとした。チンピラもこれには「すいません、すいません」と慌てふためいていた。先輩力士が「今度言ったらぶっ殺すぞ」とチンピラを歩道側にぶん投げて事は済んだ。
これはあくまで一例であって、当時の相撲取りにはこんな荒くれ者たちがわんさかいたのである。力士同士の殴り合いの喧嘩も日常茶飯事。ハンマーパンチを一発食らってそのまま失神したなんてこともあった。なかには、相撲はあまり強くないが喧嘩だけは強い力士もいた。
後輩力士がヤクザを殴ってしまい…
ちなみに、当時喧嘩最強と言われていたのは大鵬親方の付き人たちだ。飲みに行く際は3~4人ほど幕下以下の相撲取りを付き人として連れていくのだが、その時に連れて行ったのは喧嘩が強い人だったとうわさに聞く。
私はと言えば、喧嘩や暴力があまり好きではなく、何かがあればなんとかしないといけないという気持ちはあったが、基本的に自分からそういうことを仕掛けることはなかった。
昔の話になるが、裏社会の連中と力士の後輩がトラブルになった際は、なんだかんだ守ってあげることが多かった。
かつて藤島部屋の若い衆には、考えの足りないやつがいっぱいいた。例えば、夜に若い衆が飲みにいったときヤクザ者を殴ってしまい、朝方にヤクザが10人くらい部屋に来て「二子山(ふたごやま)を出せ!」と言ってきたことがある。
親方をご指名だったが、世話人から私に電話がかかってきて「おい、なんとかせえ」と言うのである。いきなり親方を出すわけにはいかないとはいえ、ヤクザ者たちが怒り狂っている中で、なぜ私が対処しないといけないんだという気持ちは正直あった。