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この数字たちは少ないと感じるかもしれない

 ちなみに女流棋士の歴代対局数ランキング1位は清水市代女流七段の55局(2011年度)、棋士の歴代対局数ランキング1位は羽生善治九段の89局(2000年度)。西山さんは少なくとも55局以上は指す上に、公式戦も含めたら89局を絶対に越えないとは断言できないだろう。完全なる未知の領域である。

 西山さんと比べると大きく数字は下がるが、私も今年度は対局が多く、29局指している。女流棋士対局数ランキングは5位。自身の女流棋戦での最多対局数が36局なので、ほぼ間違いなくそれを更新することになる。36局指した年も、途中で疲れを感じることも多かったが、今年は4月から今まで常に対局をしているような感覚だ。

 1年が52週、365日あることを思えば、先に記した数字たちは少ないと感じるかもしれない。

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 しかし、私たちは対局以外の見えないところで毎日、対局相手のことを知り、対策を考え、アンテナを張って自分の興味のある戦型を調べ、詰将棋などで基礎体力をつける。

 空いている日には研究会で人と将棋を指したり、指導対局や解説などの普及の仕事を入れたりし、夜にはポチポチと原稿を書く。

 そうして過ごしていると、気が付けばまた、対局の日を迎えている。

今年のハロウィンは、二人の娘に不思議な国のアリスの衣装を自作した ©上田初美

里見さんの「力強い言葉」に感じたこと

 好調の時はいくら対局があっても良いという気持ちなのだが、対局をこなしていく内に疲労は間違いなく蓄積されていき、フッと一息をついた時に糸が切れたような状態になることがある。読みがかみ合わず、指し手はチグハグになってしまう。ここから脱出するには、また調子が上がってくるのを根気よく待つしかない。

 今年度をここまで戦ってきて、対局数に対して自分の将棋体力がついていけていないと、改めて自覚した。トップグループと戦う機会が増える度に、常に勝ち続けていくことの難しさを体感するのである。

 今年棋士編入試験を受け、敗れた里見香奈女流五冠(今年度対局数は42局)は、過密日程での受験について聞かれ「多いのは間違いないと思うが、どういう状況でも変わらず力を発揮できないと本当の強さではない」と語った。

 相当に力強い言葉で、きっと里見さんはさらに強くなるのだと感じさせる。

 努力の量を一気に増やすことが難しいのと同じように、体力はすぐに大きく伸ばすことはできない。やるべきことは、コツコツと将棋の筋トレを増やし、続けることだろう。インナーマッスルは将棋でも大事なのだ。

 この対局数に慣れて、対応できる体力がつく頃には、私たち女流棋士はきっと、今よりひと回りタフになっている。

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