悲願達成。安直かもしれないが、そんな表現が頭に浮かぶ。12連覇中の里見香奈女流名人に挑んだ伊藤沙恵は、9度目のタイトル挑戦にして初の栄冠を手にした。ファンにとっても印象深い出来事だったに違いない。「観る将アワード2021/2022」では、観る将ファンが選ぶ「最優秀女流棋士賞」に伊藤女流名人が選出された。
一方、伊藤女流名人の師匠、屋敷伸之九段は早熟の天才棋士だ。16歳でプロデビューを果たすと、プロ入り後1年目2カ月、17歳でタイトル戦初挑戦。その半年後には、18歳6カ月で初タイトルである棋聖を奪取した。どちらも藤井聡太竜王に破られるまでは、「タイトル挑戦」「タイトル獲得」の最年少記録だった。
苦しみつつ歩みを進めていた弟子を師はどのような思いで眺めていたのか。改めて二人に聞いた。
「誰がくるんだろうと棋譜を見ながらワクワクしています」
――女流名人のタイトルを獲得されてから半年ほど経ちますが、改めてタイトルを持つということ、タイトルホルダーの師匠であるということについてお話しいただきたく思います。
伊藤 タイトルを獲った直後は色々な取材が多く、それに追われる日々でしたね。一段落すると、月1回の女流名人戦リーグを指さなくなったことに気づいて、その余裕を心身のリフレッシュに当てていますね。
屋敷 やっぱり直後は色々な反響があって、また就位式なども行われるので、伊藤さんも忙しかったでしょう。応援してくださったファンの方々にも喜んでいただけて良かったと思います。今は慣れてきて、自分のペースでこなせているのかなとみています。
伊藤 挑戦者を待つことが結構楽しいんですよ。誰がくるんだろうと棋譜を見ながらワクワクしています。初めての経験ですが、体験できてよかったですね。強豪ぞろいのリーグを勝ち抜いてくるわけですから、どなたが来ても大変なのはわかっていますが、今はリーグの棋譜を見て楽しんでいる状態です。
ほとんどが好きな棋士を「羽生先生」と答えているのに…
――伊藤女流名人が屋敷九段の門下に入った経緯を教えてください。私は以前にお母様が熱烈な屋敷ファンだと聞いたことがありますが。
伊藤 家族みんなが師匠のファンなんですよ。指導対局で兄が師匠からほめてもらったのがうれしく、奨励会入会を考えた時の兄が師匠に手紙を出しました。