ある対局当日、対局室に入ると、珍しい光景に思わず足を止めて全体を見渡した。

 その日はすべての対局が女流棋戦で、一番格が高い「特別対局室」や、3部屋をぶち抜いた大広間の対局室のみならず、ありとあらゆる対局室が女流棋士で埋められていた。

その空気感だけで背筋が伸びた気がした

 数年前まで、東京・将棋会館で棋士の公式戦と女流棋戦が同じ部屋で行われることはほとんどなかった。今よりも全体の対局数が少なく、部屋の調整がしやすかった面もあるのだろう。

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 廊下を挟んで右側で棋士、左側で女流棋士が対局し、それぞれ別の部屋で対局している感覚が強くあった。

対局と対局の合間に人参を収穫 ©上田初美

 ちなみに関西将棋会館はその造りから、一番格が高い「御上段の間」から、その階の対局が一望できる。初めて関西で将棋を指した時には、谷川浩司十七世名人が同じ空間で対局しており、その空気感だけで背筋が伸びた気がした。

 ここ数年で女流棋士の対局数は大幅に増加し、東京でも必然的に棋士と同じ部屋で対局をすることが増えた。細かいことだが、部屋によって体感気温や景色なども違い、同じ「将棋を指す」という行為でも環境が変わると少し緊張した。何事も変化した直後は違和感がある。が、それも慣れと共に馴染んでいった。

体力の大事さを改めて感じている

 別の部屋で行われていた対局が、少しずつ混じり、女流棋士だけで全対局室が埋まる日がやってきた。私が見ている、全体で見ればわずかな期間でも、時代は変わっていくのだと思うと感慨深くなるものだ。

 対局数の増加、特にリーグ戦である女流順位戦が創設されたことにより、女流棋士全体が活気づいた。

 トーナメント戦では負けてしまえばその棋戦はそこで終わり、次の棋戦が始まるまで対局がつかない。すべての棋戦を1回戦で負けてしまうと、年間対局数が1桁だという時代は、それ程前のことではなかった。

上田初美女流四段 ©文藝春秋

 負けても対局ができるリーグ戦はとてもありがたい。次の対局がついているということは、日々の勉強のモチベーションにも大きく関わってくるのだ。

 一方、トップグループでは体力の大事さを改めて感じている人が多いと推察する。

 現在対局数トップの西山朋佳女流二冠は、4月から数えて49局の女流棋戦を指している(※対局数は、11月22日現在。以下同様)。これは棋士の対局数ランキング1位の服部慎一郎五段と同じ局数だ。西山さんはさらに女流棋士枠で公式戦でも対局をしているため、実質全棋士・女流棋士の中で一番多く対局をしていることになる。