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休場明けの阿炎に初優勝をもたらした“動”の相撲とは?《“元安美錦”安治川親方の11月場所総評》

けっぱれ! 大相撲――2022年11月場所

note

 1年納めの九州場所を、私安治川が振り返っていきたいと思います。

 まずは横綱照ノ富士についてです。横綱は9月場所後に両膝を手術する決断をしました。

 痛みをこらえ、無理をしていた膝が悲鳴を上げたのです。膝の状態は非常に悪く、骨が変形し、膝の皿が横にずれて、骨や軟骨に引っ掛かっていました。土俵に戻るために決断した手術です。現在経過は順調で、リハビリとトレーニングに励んでいます。しっかり治し、横綱として万全の状態で土俵に戻って来ると期待しております。ファンの皆様は、少し待っていてください。

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元安美錦(安治川親方) ©文藝春秋

 横綱不在の九州場所は、序盤関脇豊昇龍が優勝戦線を引っ張っていきます。

 持ち前の運動神経の良さで、攻められながらも自分の足を、相手の足に巻き付け体勢を崩す逆転技「河津掛け」や相手の腕を引っ張り土俵の外に出す「引っ掛け」といった技で白星を重ねていきました。

 追いかけるのは王鵬と高安です。

 王鵬は積極的に攻める相撲が出てきました。かねてから、押せないと叩いてしまう事がありましたが、今場所は押してから「横のいなし」で相撲の幅が広がりました。豊昇龍戦はお見事でした。

 高安は、場所前の出稽古を精力的にしていました。自ら稽古相手を求め他の部屋に出向き、一心不乱に稽古する姿に、「今場所こそ優勝」という強い決意が見えました。場所前から積み重ねた準備が功を奏し、非常に落ち着いた相撲を連日取っていました。

 今場所は立ち合いの「かち上げ」が強烈で、自分の体を相手にぶつけ、跳ね上げておいて、次の攻めに繋げる理想的な「かち上げ」が後半戦の高安を支えました。また、これまではインタビューやコメントを求められても、多くを語らない力士でしたが、「感謝」や「想い」を口にするようになりました。何かを変えようとしている高安に、「今場所こそ優勝する」という強い気持ちが見受けられました。

 更には大関貴景勝、休場明けの阿炎、新入幕から2場所連続10勝の錦富士が優勝争いについていきます。