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休場明けの阿炎に初優勝をもたらした“動”の相撲とは?《“元安美錦”安治川親方の11月場所総評》

けっぱれ! 大相撲――2022年11月場所

note

東花道で見た、高安、阿炎、貴景勝。三者三様の"集中力" 

 終盤、目まぐるしく状況が変わります。

 先頭を走る豊昇龍を、王鵬と貴景勝が引きずり下ろします。

 13日目に2敗で先頭に立った高安は、14日目に輝戦が組まれました。必死に抵抗をする輝を退け、単独トップで千秋楽に臨みます。

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 優勝争いを何度も経験し、悔しい思いをしてきた高安は、その経験を糧に優勝への強い思いを胸に秘めて、土俵に上がり続けていました。

 14日目、私は東花道で警備をしていました。

 警備をしながら、花道から土俵に向かう高安、阿炎、貴景勝の様子を見ていました。集中の仕方が三者三様で、とても印象的でした。

 先頭は阿炎。淡々とし、冷静な佇まいです。付け人と実際に体を動かし、動作を確認しながら、ぐっと集中していく姿に「動」を感じます。次に登場したのが高安。近寄りがたい雰囲気でまるで禅を組んでいるかのようです。一点を見つめ動かない姿に「静」を感じます。最後に入場したのは貴景勝。自分が意識する動きをいくつか確認しながら、呼吸と視線が荒々しくなり、一言二言自分に言い聞かせるように言葉を発し、自らを鼓舞し気合を入れていく貴景勝。それぞれのやり方で極限まで集中している様子を近くで見ていて、私も背筋が自然と伸びていました。

 千秋楽の大一番、勝てば優勝の決まる高安と、勝てば優勝決定戦に持ち込む阿炎の対戦です。両者が持ち味を出し熱戦になりました。徹底して高安にまわしを与えない阿炎が、突き倒して勝ち、優勝決定戦に持ち込みました。

 そして、勝てば優勝決定巴戦の貴景勝は、若隆景を相手に激しい張り手を交えて攻め切りました。

 このような展開を、誰が想像したでしょうか。