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休場明けの阿炎に初優勝をもたらした“動”の相撲とは?《“元安美錦”安治川親方の11月場所総評》

けっぱれ! 大相撲――2022年11月場所

note

28年ぶりの優勝決定巴戦。勝敗を分けたのは……


 優勝決定巴戦は28年ぶりです。その巴戦を制したのは、阿炎でした。

 本当は、私はこの巴戦の振り返りを書きたくないほどです。それほど高安が気の毒でした。

 初戦は本割同様、高安対阿炎です。立ち合い、阿炎は左に動きます。高安は「かち上げ」ではなく、左を差しに行きました。阿炎を捕まえようとしたのです。その結果、立ち合いがかみ合わず高安がいつもと違う角度で当たってしまいました。首に痛みが走り立ち上がれません。会場内がざわつく中で巴戦は続きます。

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阿炎対貴景勝は、異様な雰囲気の中で仕切りが続けられます。立ち合いで貴景勝は阿炎が何かしてくるかもという心理が働き、動けませんでした。そこを見透かしたように、阿炎の強烈な当たりからののど輪攻めで一気に貴景勝を押し出し、優勝を掴み取りました。

 休場明けで番付を下げての今場所でしたが、怪我の影響を感じさせず見事な優勝でした。

 この優勝は、謹慎中の阿炎を支えてくれた師匠や全ての方々への恩返しになったのではないでしょうか。

優勝決定ともえ戦、阿炎(右)は押し出しで貴景勝を破り初優勝 ©時事通信

 九州場所は阿炎の優勝で幕を閉じましたが、年齢が近い力士の中で、意地の張り合いというか、気持ちをぶつけ合う激しい相撲が随分あったと思います。

 同じ年代で、先に三役で活躍している貴景勝には翔猿や錦富士や翠富士、豊昇龍には琴ノ若や王鵬が向かっていく図式がありました。

 そこに、大関を目指す若隆景や成長著しい若元春、霧馬山や明生などが加わり、来年は、群雄割拠の新時代に突入していくのではないでしょうか。

 来年の相撲界はどのような盛り上がりをみせるのか。

 楽しみですね。

 私からは一言。

 全力士、「けっぱれ!!!」

「生まれたての赤ちゃん」安治川部屋を宜しくお願い申し上げます

 私事ですが、この度12月1日の理事会で承認を受け、安治川部屋を新設することとなりました。今の心境は、荒波に向かう大間のマグロ漁師のようにわくわくしています。

 安治川部屋は、まだ「生まれたての赤ちゃん」です。

 これから弟子と、皆様と共に成長していく「安治川部屋」を宜しくお願い申し上げます。

 けっぱれ、安治川部屋!!!

 このコラムも、今回が千秋楽にございます。

 お仕事だと忘れるほど楽しく書かせて頂きました。

 毎回本場所を振り返り、興奮し、無我夢中で書いていました。書くことで改めて相撲の魅力を私自身も感じました。相撲はやっぱり面白いですね!

 それでは、これにて結びの一番終了です。

 本当にありがとうございました。へば!!(津軽弁でさようなら)
 

休場明けの阿炎に初優勝をもたらした“動”の相撲とは?《“元安美錦”安治川親方の11月場所総評》

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