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腹部を食われ無残な姿で横たわり…過去最高に危険なヒグマ“犬殺しのRT”と対峙したハンターの背筋が凍った瞬間

腹部を食われ無残な姿で横たわり…過去最高に危険なヒグマ“犬殺しのRT”と対峙したハンターの背筋が凍った瞬間

2022/12/13
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「あ、やられた」

 中川はそう思ったという。だが「RT」は目の前1メートルほどのところで急停止すると、クルっと反転し、道路に駆けあがると、道路封鎖中の警察官の前を悠然と山へと去っていった。

「姿は見えねんだ。声だけ。いわゆるブラフチャージ(威嚇行動)だったと思うけど、もしオレが動いたり、逃げようとしたらやられていたと思う。正直、もう会いたくねぇな、と」

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 300頭以上の羆を獲ってきた中川にそんなことを思わせたのは「RT」が初めてだった。

誰も予想しなかった結末

 だが、大胆不敵な「RT」の終焉は、誰もが予想しなかったあっけない形でやってくる。

 2022年7月15日、過去の犬の襲撃現場にほど近い場所に設置された箱ワナにかかったオスグマが駆除された。体長およそ160センチ、体重は200キロほどで、11歳以上と推定されたそのクマは、後のDNA鑑定によって、8頭の犬を襲った「RT」であったことが判明したのである。

「正直、箱ワナにかかるタイプのクマじゃないと思ってたから、意外だった。顔? 他のクマとおんなじだ、おんなじ。何か特別な雰囲気があるとか、そんなことは全然なかったね」

「朝日新聞デジタル」より

 なぜ4年以上もの間、箱ワナを避け続けた「RT」が、急にワナにかかったのだろうか。中川にはひとつ思い当たるフシがあった。

「実はRTが捕まる前に、海岸町から岬町にかけての付近で立て続けにでっかいクマ獲ったんだ。それぞれ300キロ、350キロ、420キロ(※#1で筆者が中川に見せられた羆の頭骨の持ち主)あったんだけど、それまではワナをかけても、こいつらにみんな蹴散らされてたんだ。ワイヤーで固定していなかったとはいえ、箱ワナを転がしたり、崖から落としたりして壊すんだわ。で、この3頭を駆除した途端に、RTが入った。RTは200キロだから、檻を壊すことまではできなかったんだと思う」

昨年中川が仕留めた350キロのヒグマ

「RT」のDNA鑑定は、もうひとつの「意外な事実」を告げていた。「RT」の母親もまた10年前に駆除された個体だったのである。

「その母熊を撃ったのがオレさ」中川はそう言った。

「RT」は母を人間に殺された復讐で犬を襲った――そんな噂話も地元ではないではない。

 さすがにそれは荒唐無稽にすぎるかもしれない。だが「RT」の出自を知って、中川は自分が「RT」に感じた不気味さや居心地の悪さの正体がわかったような気がしたのもまた事実である。

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。

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