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腹部を食われ無残な姿で横たわり…過去最高に危険なヒグマ“犬殺しのRT”と対峙したハンターの背筋が凍った瞬間

腹部を食われ無残な姿で横たわり…過去最高に危険なヒグマ“犬殺しのRT”と対峙したハンターの背筋が凍った瞬間

2022/12/13
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「馬鹿やろう、ってね(苦笑)。オレに出てくるな、と言ったんだから、お前らとってみれ、って言ったんだ。案の定、発砲したんだけど、逃げられちゃった。それからまったく行方がわからなくなった」

 以降、約2年もの間、「RT」は姿をくらました。そして2021年6月、何の前触れもなく再び現れた「RT」は海岸町で3頭の犬を襲った。今度は中川にすぐに出勤要請が来た。

「オレが現場に駆け付けたとき、3頭のうち1頭は、もう横になって斃れていて、残りの2頭が傷を負った状態でヨロヨロと道路を彷徨っている状態だった。たまたま犬たちが襲われたところに車で通りかかった人がいて、『クラクションを鳴らし続けたら、クマは浜側に逃げた』と」

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 その車に案内してもらうような形で浜へ出て、200メートルばかりクマの逃走ルートを辿ると、ちょうど中川の娘の家がある。クマはそこにいた。

「娘の家の裏山に小さな神社があって、クマのやつは、そこに座ってじっとこっち見てるんだ。普通のクマなら、人間が追ってきたら、山の方へ逃げるもんだけど、動かねんだもん。夜だし、発砲許可も出てないから撃つわけにもいかねえし。それで娘の家が建て替え工事中で足場がかけてあったから、その上からライトで照らしたら、ようやく動いてヤブの中に入った。1時間くらいにらめっこさ。あれには恐怖を感じたなあ」

 中川は、自分の知っている羆とは異なる行動をとる「RT」に何とも言えぬ薄気味悪さを感じていた。

「あ、やられた」

「RT」と再び相まみえたのは、それから間もなく、場所は羅臼の町に入る前に広がるソスケ海岸だった。朝9時頃、「RT」が国道を横断して、海側のイタドリの群生するヤブの中に入った、という通報があったのだ。警察が国道を閉鎖する中、中川ら4人のハンターは、「RT」が潜んでいると思われる2キロほどのヤブ道を真ん中で分け、標津町方面(南側)と羅臼町方面(北側)をそれぞれ虱潰しに調べることにした。

「標津町側にいるかな、と思ったらいない。だったら羅臼町側しかない。『よし、行くぞ』と気合を入れて、30メートルほど進んだら、ビンゴ、いきなりいたのよ」

 密集するイタドリとフキでクマの姿こそ見えないが、「ヴヴヴッ」と低く唸る声とともに微かな獣臭ですぐ近くにいることがわかった。こういうときこそ犬がいてくれれば心強いのだが、頼みの熊五郎はおろか、その孫の「ゲン太」でさえ、もうとっくに猟は引退しており、身一つで対峙するしかない。

名犬「鳴滝のイチ」の血を引く熊五郎

「今思えばさ、オレも『脅かし鉄砲』(威嚇射撃)をすればよかったんだけど、弾を装填して構えながらじわじわ音の方へと近づいていったんだ」

 次の瞬間、ものすごい咆哮が響き、「殺気」が吹っ飛んで来た。鳥肌が立ち、背筋が凍った。